転生したら死にゲーの雑魚ゴブリンだった。プレイヤーが落とした経験値を拾っていたら一日で魔王になっていた
俺は死んだ。
んで、転生してた。
ゴブリンに。
◆◇◆
ひいィィ! 醜い!!
自分の手がもう醜すぎるっ!!
「アゥッ! グワァ!!?」
口の中も気持ち悪くて上手くしゃべれない!?
歯がほぼ無いし粘つくこれ何だ!? 自分の口の中で舌を動かすのも嫌だ!
ふと横に俺の手と同じような手をした奴がいる——。
ゴブリンじゃねーか!
え、俺、ゴブリン!?
自分がゴブリンだと気付いた瞬間に全てが嫌になった。
流れる涙も汚ねぇ……。
いつから俺はこの姿になったんだ!?
トラックに轢かれた記憶があるが……ずいぶん昔のような気がする。
あれは前世か……?
……。
ええ……!? もしかして、気付いてないだけで、ずっとゴブリンだったのか……。
俺のゴブリンの身体もひでぇが、見えてる風景はもっと酷い。
朽ちた建物は汚れて、ネバネバした何かに覆われている。
地面から生えた蔦が建物に絡んでいるが、灰色に濁った葉に瑞々しさはない。
そして、昼間だと言うのに、太陽の光が冷たい。
……知ってる、この世界、このゲーム。
死にゲーで有名なヤツだ。
面白かったけど、1000時間は遊んだけど、絶対にこんな世界に転生したくないと思う世界感のゲームだ。
——死のう……こんな世界地獄だ。
ちょうど俺が生前操作してたような鎧と武器を持ったプレイヤーっぽい奴が来た。
ラッキー! ちょうどいい!
殺してもらおうと俺は前に飛び出した。
サクッと死んだ。
あー良かった、解放された!
そう思った手がゴブリンだった。
……え……死ねない……?
隣のゴブリンもサクッと切られて、手足が飛んでいったのを見たが、五体満足で生きてる。
もしかして、ここにリスポーンするゴブリンとして転生してる?
は?
どーすんだこれ?
目の前にまたプレイヤーがやって来た。
なんだ?
サクッとなんのためらいもなく切られた。
またリスポーンした。
待て! これは、自殺するつもりで飛び出さなくても、普通に殺されるヤツ!?
そう思ってるそばからまたプレイヤーが来た。
サクッ! っとやられる……身構えたが、今回は俺を無視して先を急ぐ。
その先に、巨大なボスモンスターがいた——。
——思い出した。
ここはこのボスのエリアで、この辺にしては珍しい雑魚ゴブリンが配置されているんだ。
ゲーム内ではここのゴブリンはプレイヤーの動線上にいるから大抵は殺される。
一撃で死ぬから避けるより手間がない。
ただ、たまには無視するプレイヤーもいる。
さっき、俺を無視したプレイヤーは、ボスに挑んで、サクッと倒されていた。
プレイヤーの死んだ場所には青白い炎が揺れていた。
プレイヤーが集めた経験値の塊——。
——っ!
あ……そうだ、俺はこれに触れて、前世を思い出したんだ……!
あれはゲーム内でプレイヤーの経験値が一度殺されて落ちたものだ。
戻って、プレイヤーが回収すればまた自分の経験値に出来る。
これはプレイヤーのものだと思っていたけど……モンスターも回収できるのか!?
と言うか、モンスターに回収されるから時間が経つと炎が消えていたのか!
あ、いや、炎をよく見ると自然と薄く小さくなっている。
やはり時間経過と共に消えるらしい。
でも、それに偶然、俺が触れて……前世の記憶を思い出したんだ。
俺は消える寸前の炎に飛び込んだ。
パアッと周りが明るくなった。
ちょっとだけ力が増えた気がする。
二回目だから衝撃が弱いのか?
前世を思い出したさっきの衝撃がない。
それとも炎が薄かったからか?
俺は次のプレイヤーが炎を落とすのを隠れて待つ。
プレイヤーの動線上にいなければ、ゴブリンなんて追いかけて倒すほどの敵じゃない。
プレイヤーが俺を素通りして、ボスに倒され炎を落とす。
俺は素早く炎を回収する。
グンッと力が上がるのを感じた。
これだ! これくらいの力の衝撃がないと前世なんて思い出せない!
俺が前世を思い出した時には、この濃い炎を回収したのか!?
いや、違う。
たぶん俺はずっと長い間、無限湧き雑魚ゴブリンとしてここにいたんだ。
なんとなく記憶にある。
長い時間の中で、たまに、偶然、弱い炎が回収される時があった。
何度も繰り返した温かい光を浴びる事。
暖かい、嬉しい、光、浴びるたびに感覚が積み重なる。
何度も何度も積み重ねて、やっと前世を思い出させる程の知性になったんだ——。
俺はかつて人間だった——。
遠すぎて朧げになった前世の記憶が、ゴブリンとしての長い時間を感じさせる。
遠い昔に、俺がまだ人間だった頃に、ただ日々を生きてるだけの誰にも必要とされない男だったかもしれない。
ただ、ゴブリンだった俺にとっては、前世の俺こそが希望だ——。
前世を思い出した俺は、ゴブリンが長い時を超えて、何百、何千と回収した炎上回り数百倍は上回る経験値を一時間ほどで集めた。
心なしか身体が軽く、見た目の嫌悪感がなくなってきた気がする。
まあ、醜いゴブリンが自分の姿なのだから慣れかもしれない。
ここはボスも強く多く経験値を落とすプレイヤーが多いが、ゲームとしては中盤だ。
もっと後のエリアに行けばもっと経験値が稼げる。
モンスターの俺がエリア感を移動できるのかと思ったが、やってみたら移動できた。
エリアというより、ひと続きに世界が繋がっていて、ゲームの設定は生きているが、全く違う世界のようだった。
ゲームそのものではなく、ゲームを元にした世界に転生したのか。
俺は別のエリアで短時間で大量の経験値を稼ぎ、次のエリアを目指した。
——人間……プレイヤーと同じような姿の人々が住む街のようなものがあった。
鎧や武器は持たずに、ラフな格好をしている。
ゲーム中には無かった場所だ。
話だけでも盗み聞き出来ないかと、恐る恐る近寄ってみると、すぐに見つかってしまう。
「兄さん、寄ってかないか」
「え……」
見ると俺の手は滑らかな人間のものになっていた。
口の中も湿っているが、嫌なネバつきが無く、歯がある——っ!
集めた経験値が増えて、俺の見た目が変わってる——。
街を歩いて聞き耳を立てると、この世界では、魔王が世界を荒らして国を滅ぼしているらしい。
その滅ぼされた世界だけが、俺が前世でプレイしていたゲームの中らしかった。
ゲーム外には普通に人間の暮らしがあったのか。
やはり植物や太陽はどこか暗く冷たいが、人間は生きている。
子供たちが駆け回り、若い母親と父親がそれを見守っている。
ズキッと胸が痛む。
俺はこの世界で人間の姿に慣れたが、結局はモンスターだ。
あの中には入れない。
前世でも入れなかったあの輪の中からまた締め出された——。
俺は、街に背を向けて、経験値を求めた。
ラスボスのエリアでは死屍累々で、経験値が他の比じゃないくらいに増えた。
気づくと俺の力がラスボスを超えていたらしい。
「——魔王様」
いつの間にか俺の周りには人——いや、魔物が集まっていた。
人型の魔物たちは自分より強い者の存在が分かるらしい。
俺がじっと目を凝らして魔物たちを見たら、数字が浮かんできた。
これはステータス画面か!
前世でプレイ中に見た。
いつから出来るようになっていたのか、元々あったのか、ステータス画面で、俺の能力は人型の魔物の誰よりも突出している。
魔法なんかも使えるようになってる。
「あなたが私たちの新たな魔王です」
そう、前の魔王がひざまづく。
「……」
魔王だって?
ゴブリンから一日で魔王になったのか!?
俺のこの世界での居場所はここなのか……。
もう俺は人間じゃなくて、魔王なのか。
人型の魔物たちのそれぞれの顔に様々な思惑がありそうで、一筋縄ではいかないだろう。
可愛い女の子がいる。
イケメンも……って、俺の方がイケメンになってる!?
鏡に映った自分に驚愕した……!
ええ!? ゴブリンだったのに!?
いや、ゴブリンとしてもあれはあれでイケメンだったのかもしれない。
誰にも判別出来なかっただけで。
魔物たちの顔に、魔王になった俺への期待が見えた。
誰にも気づかれないだけで、イケメンゴブリンだった俺。
ゴブリンが積み重ねた長い時間の先に、たった一日で魔王になれた。
「よし! ちょっと人間の街を滅ぼしに行くか!」
後は好きなように世界を動かすだけだ——!




