ワスレナグサ
私は勿忘草という花だ。
今日はわざわざ私のお話を聞きにきてくれてありがとう。感謝するよ。
さて、私のこの名前だけ聞けば、君たちは私のことを痴呆だとか、健忘症の象徴なんかだと思うだろうね。けれども勘違いしてもらっちゃあ困るよ。君たちが思い描くイメージとは真逆の、ロマンあふれる名前の由来が私にはあるんだよ。
今日はそれを話してやろうと思って、君たちを呼んだんだ。
ごほん……。
はるか昔、ヨーロッパのドナウ川でルドルフとベルタというカップルが仲睦まじく散歩を楽しんでいたそうだよ。可愛らしい女性のベルタは、ドナウ川のほとりに青く、美しく咲く私をひどく欲しがったんだ。
彼女はルドルフにあの可憐な花を取って来てくれと頼んだ。ルドルフは私を摘み取ろうと、岸へ下りていき、私の茎を手折った。その時だった。
ルドルフは足を滑らせてドナウ川の急流に飲み込まれてしまったんだ。当然私も一緒だったよ。あの時は本当に死ぬかと思ったよ。でもね、ルドルフは最後の力を振り絞って私をベルタの元へと投げたんだ。そしてその時に、
「私を忘れないで!」
と云ったんだ。
ドナウ川に恋人を奪われたベルタは、私をルドルフの墓に捧げ、彼の言い残した言葉を私に名前として与えたんだ。それが「Forget Me Not(私を忘れないで)」つまり、「勿忘草」だったんだ。どうだい、ロマンチックな話だろう?
私はもう長いことこの世界に根をはっているが、この話を一度たりとも忘れたことがないんだ。だってそうだろ? 忘れたくったって忘れられないよ。これだけ悲しみとロマンがある話なんだから。忘れる奴は相当な薄情者だと思うね。
君たちも、私のこの話を忘れてはいけないよ? 私ですら完全に暗記している話なんだから、君たちが忘れるわけがないよね。うん、そう言ってもらえるとありがたいね。話した甲斐があったっていうものだよ。
私の名前の由来は他にもあるらしいけども、まあここでは関係のない話だから割愛させてもらうよ。ご静聴ありがとう。
ところで――
私の名前は何というんだっけ?
最近、どうも物忘れがひどいです。
折角小説のネタを思いついても、しばらくするとスッカラカン。
まったく、困ったものです。
脳トレでもやってみようかしら。