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リサの心 Chapter2.

リサの心 Chapter2.


敦の実家は田んぼの先にある古民家だ。

庭もそれなりに広く子どもが3人くらいは余裕で遊べるほどである。

幼稚園の頃から何一つ変わらなぬ風景に

大人になったリサは心から懐かしさを覚えた。


「久しぶりにここに来れた・・・」

リサの言葉に、敦の父は


おかえり

とリサの顔を見て言った。


その時の表情は

まるで自分の父親に会った様な感覚で妙にこそばゆく、

心に染みるものがあった。



敦の父が玄関に案内をしてくれた。

家の中から敦の母が出迎えたくれた。


「おかえり。リサちゃん」


たったその一言でリサは急に胸が苦しくなった。


「敦のママ。ただいま」

リサは震える声で笑ってみせると

敦の母はリサの体をぎゅっと抱きしめた。


「つらかったね・・・」


敦の母のその一言がリサの心に深く刺さり

コクリと頷きながら母のぬくもりを感じた。


敦の両親は、久方ぶりに会うリサの事を温かく迎え入れてくれた。

玄関を抜けると長い縁側とリビングが見え、その奥には仏壇が置かれていた。

正面に座布団が一枚敷いてあり奥には敦の写真が飾られていた。


リサは仏壇に近づくことは無く、横目に通り過ぎた。


「2階の敦の部屋にリサちゃんに宛てた手紙があるから」

敦の母はそう言ってリサを階段へと促した。

リサは再びコクリと頷くと階段に足をかけた。

その後ろ姿を敦の両親は見つめていた。


「リサちゃん。大丈夫かな」

敦の父はそう言うと

「大丈夫。敦がなんとかしてくれるわよ・・・」

敦の母は仏壇の方を見ながらそう言った。


階段を昇った先に敦の部屋がある。

部屋はそこまで広くはなく敦の大きな体では狭いのではないかと思えるほどだった。

そこには敦が使っていた机と椅子だけ残されており

机の上には手紙が置かれていた。


手紙は1枚だけではなかった。

封筒は全部で14枚。

表には全てに(したた)めたであろう年月日と“リサへ”と書かれていた。

敦が消防士になって勤務し始めてから毎年書かれてた様だった。

しっかりと綴じられた封。

リサは椅子に座って封を開けた。


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リサへ

入社して1年目

もしも僕が殉職した時のためにここに手紙を書き残します


本当はこれを読まれない方が良いのだけれど

僕がリサを置いていなくなった時

君が悲しまないようにするために

ここに手紙を残しておきます


僕にとってリサはかけがえのない大切な人です


心から愛しています


でも、君が僕がいなくなって苦しんでいるなら

どうか前を向いて生きて欲しい


リサはこれからたくさんの人と出会い、素敵な出来事が待ってる

だからその沢山の思い出をリサから奪いたくはない


リサには幸せになって欲しい

これは僕からの願いです


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リサヘ

消防士になって5年目

遺書もこれで5通目です


本当は毎年遺書は更新して捨てる予定だったんだけど、捨てられなくて

リサへの思いが詰まった手紙だから全て残しておくことにしました


リサ今元気にしていますか?


本当ならリサとともに歩むのは僕だったはずの未来ですが

叶わない今、せめてもの僕の分まで長く幸せに生きてください


結婚して子どもが出来て未来を大切にして

リサには幸せになって欲しい

僕からの願いです



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


リサは1枚1枚ゆっくりと読み進めた。

敦はどの手紙の最後の文に必ず


リサに幸せになって欲しい

僕からの願いです


という言葉を書き残している。



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リサへ

消防士になって12年目

最近はリサから遼の話ばかりを聞きます


正直嫉妬していました(笑)


でも僕が君の元からいなくなったら

きっと支えてくれるのは彼だろうと思います


もし彼が君に手を差し伸べたら

僕の事は気にせず真っすぐにその手を握って下さい


僕が願っているのはリサの幸せ

ただ1つだけです


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



敦の遺書に遼の名前が現れたのは、

遼がフィリピンに来てから1年過ぎてからだった。



敦の言う通りだった。



リョウは私に手を差し伸べてくれた


支えてくれた

愛してくれた


敦・・・


私・・・リョウを愛して良いのかな?


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リサヘ


消防士になって14年目になりました

今年中には昇進してリサと結婚しようと思っています

でも、もしこの手紙が最後ならきっとそれも叶わなかったのかと思います

実はこの手紙はフィリピンから帰って来てすぐに書いています


僕は遼とある約束をしました


僕がいない時はリサを宜しく頼むと


それは僕にもしもの事があったら

リサの事を支えて欲しいとの思いで彼に伝えました

彼はきっと君を愛してくれます


だから、リサ

僕がいなくなっても、彼の手を放さないで

僕がこの世界から消えても

リサへの気持ちは、思いは、魂は

遼がきっと引き継いでくれる


君が彼の手を放さない限り

僕は君をずっと感じられる

君も僕をずっと感じられる


死んでもリサを愛してる

永久の愛をこめて


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


敦の両親は縁側に腰を掛けてスイカを食べていた。

チリンチリンと風鈴がなびき、季節は夏に近づいていた。


仏壇には切られたスイカが供えてあった


リサは敦の手紙を持って下に降りてきた。


「敦のパパ・ママ・・・私」

言葉を詰まらすリサに2人は縁側に来るように促した


リサは、2人の元へと近づくと

「スイカ…一緒に食べよう」

と敦の両親は言った。


リサはその場に座って、

手に取るとむしゃりとスイカを食べた・


「美味しい・・・美味しい・・・」

リサの目から涙が溢れ、子どもがスイカを食べる様にむしゃりむしゃりと頬張った。


「懐かしいねぇ・・・リサちゃんと敦が夏休みにこうやってここでスイカを食べてたよねぇ」


うん

とリサは頷きながら、食べ続けた。


「敦とお話出来た?」

敦の母はそう言うと、リサはいったん食べるのを止めて

うんと頷くと

「お母さんが教えてくれた魔法が私達をまた繋いでくれた」

とリサは応えた


“どこにいても、時間もぜーんぶ飛び越えて一緒にいられるとても素敵なものなの。その魔法を使えばいつでも敦君に会えるし、敦君もリサに会える”


「彼がもうこの世にいないことからずっと私逃げてた。

でもようやく向き合えた。敦が私の背中を押してくれた。この世界にいなくても彼の魂は生きてる。そう手紙が教えてくれた」


リサはそう言うと、2人に手紙を渡した。

「もう。大丈夫・・・この手紙が無くても私は前を向ける」

リサの言葉に、表情に光が差した


「そうか。私達も、彼から遺書をもらっていて供養してもらおうと思っていたんだ。

もうこの手紙が無くても大丈夫なんだね」

敦の父はリサの表情を見ながら言うと


「うん。もう大丈夫。あと、これも一緒にお願い」

リサはそう言うと、15通目の手紙を渡した。

「これは、私から敦へ。実は机の中に一枚余ってたの気づいて。書いちゃった」


「そう・・・敦も喜ぶわ」


3人は手紙を仏壇の前に置くと手を合わせた。

「ねぇ敦パパ。車借りても良い?敦のお墓に行く用事があるの」


「別に構わないが、僕らも一緒に行こうかい?」

敦の父の言葉に

「一人で行く。大切な人と会う約束があるから」

とリサは応えた。

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