別れ Chapter2.
別れ Chapter2.
11月26日
午前4時08分
火の手は一向に収まらない。
高い階層ははしご車で
低い階層は隊員が突入して救助を行う。
彼は炎がたちこめる室内に乗り込んだ。
一部屋一部屋丁寧に確認し、最後の部屋で1人の寝たきりの老人を発見した。
彼と若い隊員の2名で運び出すことになった。
「早く運び出せ!まだ息がある!」
現場で指揮をとっている隊長の彼がそう言い、若い隊員が老人を担いだ瞬間、目の前のタンスが倒れた。
隊員の体を飛ばし、体を張って彼は庇った。
代償に彼はタンスの下敷きになってしまった。
「隊長!今助けます」
若い隊員は老人を一旦降ろし、
必死にタンスを持ち上げようとするが1人ではびくともしなかった。
「いけ!これは命令だ!!」
声をあらげる隊長
「しかし、このままじゃ隊長が・・・」
隊員の言葉に隊長は後を押す様に言う
「いいからいけ・・・このままじゃ全員死ぬぞ!助けられる命を助けず何が消防士だ!」
隊長の言葉に隊員は目を輝かせて言った。
「隊長も助けなければならない大事な命です」
僕は・・・
こんなにも素晴らしい人たちと・・・
「このタンスは1人じゃ持ち上がらない!仲間を連れて僕を助けにこい」
隊長の言葉に
「・・・分かりました。必ず助けに来ます」
隊員は老人を担いで走り出した。
彼らが建物を出たのが
4時24分
これでマンションに取り残されたは彼だけになった。
「行かせて下さい!隊長がまだ・・・」
叫び声をあげる先ほどの若い隊員の体を必死に抑える別部隊の隊長。
「だめだっ!今飛び込むのは危険すぎる!もう入り口も崩れかけているだろ!」
「いやだ!俺!約束したんです・・・
必ず助けるって、皆で救助に行かしてください」
「それは無理だ・・・分かるだろ・・・」
隊長の目から涙がすーっと流れたのを隊員は見た。
「そんな・・・俺は行く!1人でも・・・」
隊員が静止を振り払い、急いで振り返った瞬間、建物がぐらっと傾いた。
「分かっただろ・・・
君がやるべきことはこの火を一刻も鎮火し、救助に向かうこと・・・
それが最短で彼を助けに行く唯一の方法だ」
6時30分
炎は鎮静化し、先ほどの部屋へ急ぎへ乗り込む。
そこには先ほどのまま、タンスの下敷きになった隊長の姿を発見した。
すでに意識もなく呼吸もしていなかったが
すぐに病院に搬送された。
7時30分
一ノ瀬敦の死亡が確認された。
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敦が亡くなった。
私にとって彼はかけがえのない大切の人だった。
なぜ彼がこの世界にいないのに
私がこの世界にいるのかが
とても違和感があった。
私を置いていなくなるわけがない。
現実が受け入れられない。
敦の両親がその彼の亡骸の前で泣き崩れた。
私の母と父は2人、手を繋いで泣いていた。
私の涙は枯れている。
今あるこの亡骸が私の愛した彼だと思いたくない。
本当はどこかにいて、私を迎えに来てくれるはずだ。
彼が私を置いていくわけがない。
その亡骸はタンスの下敷きになったから
全身まで火傷せず、原型をとどめられていたらしい。
私にとってはどうでもいい。
きっと私を・・・
見つけてくれる
私を救ってくれる・・・
だって彼は
私を置いて行かない
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その亡骸に大勢の人が話しかけていた。
“隊長。すみません。助けに行けなくて、必ず助けると約束したのに”
目を瞑りながら大粒の涙を流す彼は
私よりも若い人だった。
“リサ、辛いと思うけどちゃんとお別れ言いなさい”
父は言うと母は私の隣に着いていてくれた。
その亡骸は
”一ノ瀬 敦”
という人間にそっくりだった。
優しい顔をしていた。
私の愛したそれと同じだった。
でも目の前のそれは
私を見て笑ってくれないし、
怒っても、励ましてもくれない。
抜け殻のその体は触れると冷たかった。
あんなに暖かったあの手から
何も感じなかった。
なんて声をかけたのか覚えていない。
どんな表情をしていたのか知らない。
ただその時は母の体が妙に暖かく
彼女の心強かったことだけは覚えている。
消防士の方々は口をそろえて言っていた。
“彼は立派な人だった。命がけで沢山の人を救った尊敬すべき人だ”と
それを聞いて敦の母と父はお礼を言い深々とお辞儀をしていた。
そして出棺の時が訪れる。
敦の母と父は何度も何度も我が子の顔を見て話しかけていた。
何を言っているのか分からないが
その姿は見てはいけない様に感じ私は目を反らした。
葬儀は滞りなく終わり、敦の両親に挨拶をした。
“リサちゃん今日は敦のために来てくれてありがとう”
“敦も喜んでるよ”
敦の両親の言葉に私は社交辞令の様な
うわべだけの挨拶をした。
そして
私の日常がまた始まった。




