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北海道 Chapter8.

北海道 Chapter8.


オス熊の牧場のすぐ隣にメス熊の牧場がある。

メス熊の牧場はヒトのオリとは異なり、最初にみたオス熊のように観客は高台から下にいるメス熊を見降ろす。

そこにいるメス熊はオス熊よりも一回りも二回りも小さかった。

メス熊はオス熊とは異なり器用に両足で立ち上がると、

上にいる観客にエサをもっとくれと両手で拝むようにせがんだり、

手を挙げてこっちにくれと芸をしてアピールをしていた。

それを人間たちは面白いと感じエサを投げ与えるのだ。

メス熊の方が人気があるわけだと卓たちは納得して他の人達と一緒にエサを投げた。


「メスは頭良いね。オスとは大違いだ」

と卓は笑って言うと。

「人間も似てるよなー」

と海斗は言うと、卓と2人はお互い見合って笑った。


メス熊達は人間に目を合わせと私にくれと言わんばかり可愛らしいポーズを決める。

アイコンタクトをされた人間は思わずエサを投げてしまう。

まるで会話をしているみたいに熊と接する事が出来るので、

エサをあげるのがついつい楽しく、あっという間にエサが少なくなる。


「俺・・・なんかオス熊不憫に思えてきたから、オス熊の方に行くわ」

卓はそう言うと、一人でオス熊の方へ向かった。

海斗は卓の後を追いかけるようについて行く。

残ったエサの最後は大きなオス熊に餌を与えることにしたのだ。

「なんかメス熊の後にオス見ると怠惰というかなんというか・・・」

「でも、愛らしいよね」

と海斗は言うと、

卓も同じことを思ったと言い

2人は笑いあった。


11時を過ぎ、2人はクマ山ステージまで戻り反対側の博物館に向かった。


ヒグマ(エゾヒグマ)博物館では北海道と熊の関係について知ることが出来る。

展示品の中には剥製の熊が飾れており、

その大きさと迫力は先ほどみた本物のオス熊とはまた違った恐ろしさがあった。

博物館には熊による人間への被害についても書かれていた。

「やっぱり熊って怖い生き物なんだね」

卓はそう言いながら、展示物を見つめた。

確かにこんなのが町に降りてきたら怖いだろうなと考えると改めてぞっとする。


博物館の展示には北海道と熊の歴史についても書かれており、

もともとアイヌ民族は熊と生活圏を分け、なるべく熊と接触しない様に生活していたが

内地・・・いわゆる本州から来た人達が来た事により人間の住む場所の開拓が進み、

それに伴い熊の住処(すみか)が減らされてしまい人里に降りて、人間へ危害を及ぼすのだという。


それを読んだ卓は本当に怖いのは人間なんだなと思っていると

「熊も怖いけど、本当に怖いのは人間だよね」

と海斗は呟き、卓は海斗と同じことを思っていたんだと以心伝心出来た事に嬉しく感じた。


確かに、自分達が安全に暮らしていたら

いきなりその暮らしを破壊され

武器を持った怖い生き物が現れたらと熊の立場に考えると

熊だけが悪い訳ではないと考えさせられてしまう。

良識をもった住み分けは非常に大事だという事がこの博物館で学ぶことが出来た。


卓はこの時ふと考えていた。

もしも、ゲイが熊で人間がノンケなのだとしたら

俺ら同性愛者は住み分けをする事が

良いことなのか・・・


いや、俺達にはちゃんと意思を伝える事が出来る言葉がある。

熊にもし言葉が話せて意思を伝えられたら

などと考え事をしている卓をみた海斗は

また難しい事を考えてるなと思い

「何考えてるの?」

と卓に声をかけた。

「えっ?あぁ・・・住み分け以外に熊と共存できる未来ってあるのかなと思って・・・」

と卓は言うと

「うーん。今はまだ無理だよ。

熊は人間という生き物のことについて分からないし

人間だって熊の事なんて分からない。

お互いがお互いの事を知りたいと思い続け、

それを止めない事を続けない限り

それは叶わない現実だと思う」

「お互いの事を理解することを止めない。

知りたい・理解したいという思いが共存していくことに繋がるってわけか」

卓は海斗の言葉に納得したように頷いた。

「なんか海斗ってすげぇよな」

と卓は言うと、海斗は照れくさそうに笑った。


2人は博物館を後にして、すぐ近くにある子グマ牧場へと足を運んだ。

自分達よりもずっと小さな子熊がアスレチックで遊んでいたりエサを食べたりしている。

とてもカワイイのに、成長するとあんな大きくて迫力のある姿になるんだなと

2人はしみじみと見ていた。

その一挙手一投足の愛くるしい子熊の姿に、2人は心を奪われていた。



気が付くと12時になりそうだったので

2人はクマ山ステージに急いで向かった。



クマ山ステージではクマのアスレチックショーを行うようだ。

飼育員と熊が現れ、丸太わたりやエサ探しなど

熊の賢さや運動神経を生で感じられるショーの内容だった。


互いの事を信頼し、互いに理解しあう。

それが例え違う生物であっても可能だと

卓は飼育員と熊の姿を見て感じていた。



クマのショーを見終えた2人はクマ牧場を後にすることにした。

「次の目的地は洞爺湖だったけ」

卓は言うと

「そうだよ。だいたい車で1時間位かな」

「どこかでお昼食べたいね。おなか減ったし」

卓はおなかをさすりながら言うと

2人は道中で食べ物屋を探しながら車を走らせることにした。

洞爺湖に向かう車中で、卓は先ほどクマ牧場で感じていたことを話すことにした。


「ぷっはは!卓そんな事を考えてたの?

クマと同性愛者を同じにするって考え方が物書きの思考だよねー」

海斗は笑いながら言うので、卓は少しムッとすると

「だって・・・なんか熊に共感したというか・・・似てるなぁって・・・」

「まぁなぁー・・・でも熊だからなぁー。

それに野生の熊と、あそこみたいに飼いならされた熊もまた違うからね。

現実問題、熊が人間の事を怖がらなくて襲うケースもあるから、

猟友会の人が命がけで熊を狩りしてくれてる訳だからなぁ」

海斗は運転しながら続けて

「熊も別に人間と共存なんて望んでるか分からないからね。

たださ、熊牧場の熊って一匹ごとに名付けされてるみたいだったし一つの個体として見てるじゃん。

そう考えると”野生の熊”の様に”同性愛者”として1つに括られてしか見られないのは俺は嫌かな・・・」

海斗の言葉に卓はうんうんと頷くと

「そうだね。俺もゲイって一括りにされるより、石田卓という1人の人間として見られたい」

「それは皆同じだと思うよ。

確かに皆に同性愛者は気持ち悪いという目で見られて、

俺という人間を否定されるのは嫌だけど、

気持ち悪いと思う事自体を否定は出来ないと思うんだ。

でもこれは俺の我儘(わがまま)なんだけどね」


“俺にとって大切な人には理解してもらいたいとは思ってる”


海斗の言葉に卓はここに来てからの事を思い出した。


海斗は家族という大切な存在に

同性愛者だという事を言えてない。


いや言えないんだ。


否定されるのが分かっているから

今までの全部が消えてなくなって

自分の存在自体を否定されてしまいそうで


怖いという気持ちは痛いほど分かる

俺も両親に自分からは言えなかった


だからかな・・・

海斗の横顔はどこか寂しそうで

切なくも感じた


「なぁ海斗・・・いつか海斗の両親に俺達の交際を認めてもらえる日が来ると良いね」

卓はゆっくりと恐る恐る聞くと

「そうだなぁ・・・もしかしたら死ぬまで話せないかもなぁ」

海斗の言葉にどこか諦めたような悲しさと、決して言わないだろうという覚悟の様なものが見て取れた。


卓はその表情から

もう何も言わないと口を閉ざしたのだった。

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