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第76話 強襲②

  一方その頃――


 榊原拓海は、イグナス・グレイハルトの炎撃の中を潜り抜けていた。


 2本のブレードがイグナス目掛けて放たれる。


 「おいおいぬるいな!」

 イグナスが炎を纏った剣で、一閃飛来したブレードを払い落とす。

 「飛び道具なんてチマチマしすぎて、俺には効かねぇぜ――!」


 ブレードは宙を舞い、弧を描いて俺の元へ戻ってきた。


 「……ならこいつはどうだ?」

 ブレードが戻る前にさらに4本のブレードを投的、つぎつぎに投げていく。


 「数を増やしたところで!」

 イグナスは飛来するブレードを冷静に払い落としていく。

 だが飛来するブレードが途切れない。


 6本のブレードが絶え間なく軌跡を描く。刃が空を裂き、戻る間もなく次が放たれる。視界が刃の軌跡で埋まる。炎の戦士――その猛りさえ、いまはその雨に埋もれていた。


 「……ッ!!」

 イグナスがゆっくりと後退する。


 Trajectory Return (トラジェクト・リターン)

 ただ投げた刃が戻るだけ――だが極限まで鍛え上げたことで、“戻る”という動作そのものが武器になった。


 投擲するスピード、戻るスピードがさらに加速していく。

 榊原の必殺ブレードラッシュだ。


 ♦


 そして――


 ミィシャの鋭い連撃に防戦一方だった。


 「ふふ、疲れてきたかしら?」

 猫型のミィシャは優雅に笑いながら、尾をゆらゆらと揺らしている。

挿絵(By みてみん)

 「まだ……まだ、いける!」

 僕は肩で息をしながらも、剣を構え直した。


 その言葉に、ミィシャが興味深そうに目を細める。

 「そう……いい顔になったじゃない」


 「でも」

 ミィシャの姿がふっと消えた。


 「これはどう♡」


  声と同時に、その姿が翼の懐に現れる。

 振り下ろされる鋭い爪――避けきれない。


 「くっ……!」


 咄嗟に剣を横に振り抜き、軌道をずらそうと試みた。


 しかし――


 ギィンッ!!


 金属音とともに、剣は手から弾き飛ばされた。


 「――あッ……!」


 重い衝撃が肩口をかすめ、鋭い爪が肉を裂いた。


 裂傷の痛みに顔を歪めながらも、後方に跳んで距離を取る。


 「剣が……!」


 武器を失い、片腕からは鮮血が滴る。


 ミィシャは落ちた剣には目もくれず、ぬるりと歩を進めた。


 「ねぇ、もっと遊びましょ? まだ終わりじゃないでしょう……?」


 その艶やかな声に、ぞっとするような殺意が滲んでいた。


 ♦


「翼!」


 翼が剣を弾き飛ばされ、肩を斬られてよろけるのが見えた。

 血が散り、彼の表情が苦痛に歪む。


 ――まずい。


 助けな、と本能が叫んだ。


 「クソッ……!」


 俺は地を蹴った。翼のもとへ駆け寄ろうとする。

 だが――


 「……どこへ行く」


 その瞬間、ヴォルクが獣のごとき速度で割り込んできた。

 巨体が壁のように立ちはだかり、爪が唸りを上げて振り抜かれる。


 「邪魔すんなや、犬っころがッ!!」


 トンファーで受け止めた衝撃に腕が痺れ、地面が揺れたように感じた。

 反撃を入れようとしたが、体が思うように動かない――連続戦闘で既に限界が近い。


 (……くそっ、威力が落ちてきてる。使えるのも……あと数発)


 それでも、ヴォルクの気迫は衰えるどころか増していた。

 踏み込むたびに地を割るような重圧が、俺を食い止める。


 悔しさを噛み殺しながら、俺は再びヴォルクに向き直った。


 ♦


 「っは……なかなかやるじゃねぇか……!」


 イグナス・グレイハルトが苦笑を浮かべながら、じりじりと後退していく。

 炎を纏った剣がブレードを弾くたびに、火花が散り、周囲の岩壁が焼け焦げる。


 俺は一瞬、呼吸を整えつつ目を細めた。


(このまま押し切る!)


 しかし、次の瞬間だった。


 風に混じって、金属が弾かれる鋭い音。続いて、耳に届いた仲間の叫び。


 「翼!!」


 視線を横に向けると、雨宮が剣を弾かれ、無防備なまま後方へ吹き飛ばされていた。

 猫のようなしなやかな影――ミィシャがその背後に回り込み、鋭く光る爪を構えている。


 (まずい……!)


 さらにその奥では――隼人がヴォルクの猛攻に押されていた。

 トンファーの動きが鈍ってきている。スキルの反動と疲労の色が、彼の全身からにじみ出ていた。


 「……っ!」


 ブレードラッシュが止まり、手元に戻る。


 「周りを気にしてる余裕があるのか?」

 隙を見逃さず間合いを詰めてくる。


「六識翔影 (ろくしきしょうえい)」


 俺の号令と共に、六本のブレードが宙に弧を描く。それぞれが生き物のように滑らかに、

 力強く舞い、二本ずつが葛西と雨宮の元へと疾走した。


 「な――ッ!?」


 雨宮の背後から迫るミィシャの爪。その刹那、横から鋭く飛来した二本の刃が、

 クロスするように間に割って入った。金属音が弾け、爪が軌道を逸らされる。


 雨宮がわずかに息を整える。ミィシャは舌なめずりをしながら、少し後ろへ跳ぶ。


 「小賢しい真似を……」


 ♦


 一方、隼人のもとでは、獣の如く襲いかかるヴォルクの鉤爪を、飛来したブレードが正面から叩き落とした。


 「ッ……!? 今のは……!」


 ヴォルクが低く唸る。俺はチャンスを逃さず反撃に転じる。


 「助かったで、榊原さんッ!」


「一撃が効かへんなら」


 力強く踏み込み、ブレードを囮にしつつ、連撃をヴォルクの脇腹へと叩き込む。

 衝撃が肉を打ち、今度は僅かにヴォルクの身体が揺れた。


 (いけるか……!)


 そう思ったのも束の間。ヴォルクの腕が素早く動き、隼人の背に回る。


 「ちぃッ……!」


 そこへ再び、もう一本のブレードが飛来し、ヴォルクの動きを制する。ギリギリのタイミングだった。


 「おらッ!」


 飛来したブレードと連携し、ヴォルクの腹に打撃を叩き込む。

 たしかに手応えがあった――が。


 ヴォルクの顔が不敵に歪んだ。


 ♦


 榊原の元では、宙に浮く2本のブレードにイグナスが苛立ったように髪をかき上げていた。


 「なるほど、三対1ってわけか。面白くなってきたじゃねぇか……!」


 火花が散る音と共に、戦況は激しく、そして均衡へと傾いていく――。


 俺の「六識翔影 (ろくしきしょうえい)」によって、劣勢だった隼人と翼は確実に息を吹き返していた。


 ♦


 ミィシャの爪を、雨宮の周囲を舞う二本のブレードがことごとく防ぎ、雨宮も冷静に反撃へと転じていく。


「こっちも行くよ!」


 ミィシャが、にやりと嗤う。

 次の瞬間、彼女の爪先から黒い靄のような気配が立ち上る。


 「《幻爪舞踏 (げんそうぶとう)》」


 その動きは、まるで見えない旋律に合わせて舞うバレリーナだった。

 一歩ごとに黒い残像が空を裂き、音のない舞踏が、静かに死を告げる。


 音もなく姿を消し、瞬間的に三方向から雨宮を襲う。

 ブレードが一つは防ぎ、もう一つは牽制するが――三つ目の爪が死角から迫る。


 僕の剣がその爪と激突し、ギリギリで致命打を逸らす。


 どれだけ早くても僕には見える……だけど、身体が追い付かない……

 あと何発防げる?


 ♦


 そして俺の前では――ヴォルクの両腕が地面に叩きつけられ、岩盤が抉られる。


 「《血嗤牙狼 (けつじがろう)》」


 ヴォルクの身体から、赤黒い衝撃波が奔る。

 咄嗟にトンファーを交差させて受け止めるも、足元の地面がめくれ、

 2本のブレードごと吹き飛ばされて巨木に叩きつけられた。


「ぐぉッ……!」


 視界の端に火花が見える。軽い脳震盪だ。

 翼を助けにいくどころじゃない……


 ♦


 「火力が足りねぇんだよ……そいつらじゃよぉ!」


 イグナスが燃え上がる腕を振り上げた。


 「《爆焔輪舞 (ばくえんりんぶ)》!!」


 空気が引き裂かれるような音とともに、火炎の輪が解き放たれる。


 飛来していたブレード数本が、その輪に弾かれ、爆ぜるように地面に墜ちた。


 「ッ……!」


 榊原の顔に焦りが走る。

 ブレードは戻ることなく、無数の火花とともに転がり、地面で動きを止めた。


 「分散すべきじゃなかったな……これで1対1」


 イグナスの瞳に冷たい光が光っていた。

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