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第57話 東京

 俺たちはルパートさんが手配してくれたホテルで一泊した。


 朝の東京は、どこか特別な空気が漂っていた。

 高層ビルの隙間から差し込む光、行き交う人々の熱量。

 久しぶりに“日常”に触れているような、そんな感覚だった。


 この日はまず、雨宮の仕事の打ち合わせに同行する。


 俺たちは都内某所のアニメーション制作会社に到着。


「じゃ、僕はちょっと打ち合わせに行ってくるよ」

 俺たちは部屋の外で待つことに。


 彼が生み出したキャラクター――“魔物の森”に登場する愛らしいモンスターたちが、

 今やグッズ化からアニメ化の流れに乗って動き始めている。


 自身が描いた魔物キャラたちが、商品展開を経てアニメ化にまで進んだことを、まだどこか実感できていない様子だった。

 それでも、打ち合わせは順調に進んだ。


「色味はもう少し淡めにしてもらえると……あ、でも、ファンの反応も見てみたいので、そのまま一案として……」

 控えめながらも、自分の想像と作品を守ろうとする雨宮の姿は、現場のスタッフからも好意的に受け取られていた。


 一時間ほどのミーティングを終えると、部屋から出てきた。


「……おかえりなさい。打ち合わせどうでした?」

 戻った雨宮に、咲耶が声をかける。


「無事終わったよ。アニメ化、やっぱりすごいよね」

 そう言って、いつもの調子で微笑む。


「じゃあ、そろそろ東京観光行こか!」

 隼人が手を叩き、気合を入れた。


「どこに行くか、決めたのか?」

 俺が尋ねると、咲耶が少し考えてから言った。


「スカイツリー……見てみたいです」


「お、定番やな。ええやん! あそこからの景色はええぞ~、俺も初めてやけど」

 隼人はテンション高めに頷く。


「じゃ、まずはスカイツリー、その後は……上野あたり? 雨宮のオススメあったらそっちも回ろう」

 俺の提案に、全員が賛同した。


 展望台からの眺めは、まるで世界が足元から広がっていくようだった。

 高層ビル群が並ぶ向こうに、かすかに富士山の稜線が見える。


「すごい……」

 咲耶が小さな声で呟いた。


「なんかこういうの見ると、“生きてる”って気がするな」

 隼人がガラスに額を押し当てながら呟く。


「東京に住んでたけど実はスカイツリー初めてなんだ」


「実は俺も」


「なんやねん、全員初めてやん」


 隼人の言葉に思わず笑ってしまう。


 行こうとは思ってたんだけど、いつでも行けるからと気が付いたら何年も経っていた。


 スカイツリーの景色を楽しんだ後は、上野へ移動し、午後はアメ横を歩いた。


「なんやここ……屋台も服も時計も……カオスすぎるやろ……」


 隼人は目を丸くして、くるくると視線を動かす。


「香辛料の匂い……すごいですね……」

 咲耶はスパイスの山と干し果物を眺めながら、少し鼻をつまむように笑った。


「にいさん!バッグ安いよ!買ってってよ!」

「ねぇねぇ!チョコレートどう!?賞味期限近いからサービスすっから!」


 呼び込みの洗礼を受けながら、俺たちは賑やかな通りを抜けて歩いた。


「わたあめだ……でかっ」

 後ろから聞こえた声に振り返ると、雨宮が巨大なカラフルな綿あめを手にしていた。


「打ち合わせ、無事終わったのか?」

「うん。だいたい良い方向に進んでるよ」


 頷くと、雨宮は照れたように微笑んだ。


「にしてもこの通り……情報量多すぎない?」

「せやな……目が足りんわ」


 俺たちは笑いながら、アメ横の喧騒の中をゆっくり歩いていった。


 夕方、俺たちは新宿へ足を延ばした。

 人混みに埋もれるようにして歩くなか、咲耶がキョロキョロと目を輝かせている。


「ここが……新宿。すごい、人が多い……!」


「夜でもこんなに賑やかなんやな……俺、ちょっと人酔いしそうやわ……」

 隼人は苦笑しながらも、スマホで写真を撮っていた。


「今どきの服、ああいうの流行ってるらしいですよ」

 咲耶が指さしたのは、明らかに“若者向け”の個性的すぎるファッションの店。


「咲耶ちゃんがあんな格好してきたら、俺、何も言えんかも……」

 隼人のつぶやきに咲耶は小さく笑っていた。


 原宿・竹下通りにも立ち寄り、

 クレープを食べたり、謎のアクセサリーショップに立ち寄ったりと、

 いつの間にか全員が観光気分を満喫していた。


「私友達とショッピングをしたことがないんです……

 ライブラを拾ったの小学生で、伊庭さんは気にせず遊びに行けとおしゃってくれますが、

 迷惑がかかるかもと思うと……」


 時折さみしげな表情を見せることがあったが、ホントは同年代の友達と遊びたかったんだろうな……

 大事な時期なのに我慢していたんだな。


「俺で良かったら買い物ぐらい、いつでも付き合うよ」


「英斗……俺たち……やろ?」


 隼人の言葉に雨宮も頷いている。


「うん!」

 咲耶は、これまでの落ち着いた表情が嘘のように、年相応の高校生らしい無邪気な笑顔を浮かべていた。


「ちなみに雨宮はどうやってノウシスに来たんだ?」


 俺が尋ねると雨宮は視線をそらした。

 言いたくない辛いことがあったのかと、配慮の欠いた質問をしたことに反省した。

 すると……


「モンスターを直に見て夢中で絵を書いていたら、気づいたらノウシスにいたんだよね」


 全員が雨宮を見る。


「そんなことある?」

 隼人の言葉に全員が大笑いした。


 出会ってまだ日が浅いのに、何年も共に過ごしてきたように感じる。

 きっと接し方の密度が違うんだろうなと俺は思った。


 これから先のことが不安がないわけじゃない、でもノウシスに来てから、

 皆と出会ってから、ここが居場所なんだと日に日に思いが強くなる。


 咲耶が長年過ごしてきた伊庭さんのいる日本支部もきっと素晴らしい場所なんだろう、

 隼人や咲耶を見ていれば分かる。


 日本支部が、そこにいるメンバーと出会うのが楽しみだと思っていた。

 知らない人物と会うのが楽しみだと感じたのは人生で初めてだ。


 彼らと出会わせてくれたライブラに俺は心から感謝した。


 俺たちは食事を済ませた後ホテルに帰ることにした。


 明日は俺の引っ越しの準備だ。

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