表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/110

第53話 鹿児島へ

 売店で何があるか見ていると影が2つ近づいてくる。


「おや、葛西さんではありませんか?」


 細目の男がにじり寄るように歩み寄り、隼人と咲耶に声をかけた。

挿絵(By みてみん)

「お前、二階堂やんけ!」


 隼人は怪訝な表情のまま、二階堂と呼ばれた男の前に立った。。


 二階堂は黒い手袋をしていた。


「テミス……」

 俺が呟くと咲耶、雨宮が反応し二人組からやや距離を取る。


「ノウシスの皆さんは相変わらず群れていらっしゃる。そんなに警戒しなくても大丈夫ですよ。

 私も4人も相手にするつもりはありませんから、彼もプレイヤーではないですしね」


 二階堂は後ろに控える男をちらりと見ながら言った。


 後ろに控えている男は赤い宝石のついたペンダントを付けている。強欲の石だろう。

 二階堂の言う通りプレイヤーではなさそうだ。


「知らない顔が3人も、どうですテミスにいらっしゃいませんか?」

 にこやかに手を差し伸べる


「お断りいたします」

「「断る!」」


 俺たちは思わず声を揃えて否定した。警戒と嫌悪が、自然と口をついて出た


「残念、嫌われたものですね、ではまた」

 肩をすくめると、その場から去っていった。


「隼人あいつのことしってるのか?」


 眉間にしわを寄せながら、背中が見えなくなるまで見つめていた。

「前にミッションで一緒になったんや、底を見せへん怪しいやつや」


「一人行動はさけるようにしよう」

 皆は無言で俺の言葉に頷いた。


 ♦


 俺たちは、売店での一件を忘れるように、食堂へと向かった。

 どこか緊張を引きずりながらも、空腹には勝てなかった。


 船内の食堂は、広々として明るい照明に包まれていた。

 窓際の席からは、真っ暗な海と、わずかに浮かぶ月明かりが見えた。


「……さすがに腹減ったわ」

 隼人が椅子に腰を落とし、メニューをめくる。


「ここは……カレーとか定食系がメインみたいですね」

 咲耶が端末を操作しながら、メニューを眺める。


「シンプルだけど、あったかいものがありがたいな」

 俺はカツカレーの写真に視線を止めた。


「僕はシーフードカレーにしようかな」

 雨宮はスケッチブックを膝に置いたまま、迷いなく注文を決めた。


 しばらくして、料理が運ばれてくる。


 湯気を立てるカレーの香りが、ほっと心をほどいていく。

 まるでさっきまでの緊張が嘘だったかのように、自然と笑みがこぼれた。


「いただきます」


 全員で手を合わせ、黙々と食べ始める。

 誰も口には出さなかったが、この静かな食事の時間が、たまらなく貴重に思えた。


「……うん、めっちゃうまい!」

 隼人ががつがつとカツを頬張りながら、声をあげた。


「美味しいです」

 咲耶も、控えめにカレーを口に運び、ほんの少し頬を緩めた。


「ここのスパイス、ちょっと独特だね」

 雨宮がスプーンを回しながら、感心したように言う。


 俺も一口運び、思わずうなった。

 コクと辛みのバランスが絶妙だった。

 疲れた身体に、染み渡る味だった。


 しばらく無言で、ただ夢中になって食べる。


 夜の海を横目にしながら、温かなご飯を囲む――

 それだけで、不思議と心が落ち着いていく。


「今日一日を乗り越えれば船旅も終わりだな」

 俺はぽつりと呟いた。


「関西君が真っすぐに帰ってきていれば」

 咲耶が小さく溜息をついた。


「……なんか……すんません」

 隼人が疲れたように言う。


「まぁまぁ咲耶ちゃん、ほら新作書けたから見せてあげるよ」

 雨宮が静かに付け加える。


 咲耶は食い入るように絵を眺めている。


 覗き込んでみるとスキュラと半魚人だった。

 なぜこんな姿に生まれ変わるんだ……


 腹を満たし、緊張の糸がわずかに緩んだ俺たちは、静かに船室へと戻った。


 絨毯を踏みしめる足音だけが、静まり返った船内にかすかに響いていた。

 夜の海を漂う船は、まるで時間さえも止まっているかのようだった。


「今夜は、何も起こらないといいな」


 俺が呟くと、隼人が軽く笑った。


「まあ、今日くらいはな」


 咲耶と雨宮も、小さく頷いた。


 船室のドアを開けると、ほっとするような、わずかに潮の香りが入り込んできた。

 それぞれベッドに荷物を置き、明日の準備をする。


 ライトを落とした船室は、わずかに揺れる振動と潮の匂いに包まれていた。


 それぞれが寝支度を整え、ベッドに体を沈める。

 しばらくは、誰もが静かに目を閉じていた。


 突如、静寂を破る警報音が鳴り響く。


「……またかよ……」

 眠気など一瞬で吹き飛び、胸の奥に冷たい緊張が走る。

 肌が粟立つのを感じながら、俺は枕元のライブラを強く握った。


 同時に、他の三人も次々と目を覚ました。


「っ、ミッション……!」

 雨宮が寝癖のついた髪をかき上げながら端末を確認する。


「ほんまに……俺ら船に乗ったら呪われてんのちゃうか……」

 隼人は半分うなされながらも、顔を叩き気合を入れる。


 隣の部屋からドアを閉める音が聞こえる。

 咲耶はすでに外で待機している様だ。


 俺たちは急いで身支度を整え、ミッションの詳細を確認した。


【ミッション】

 討伐依頼

 ランク:C

 人数:4人

 期限:12時間以内

 場所:現在位置周辺(地図表示)


「場所は……」

 地図を拡大すると、ピンは【船内】を指していた。


「もうすでにこの辺りか……」

 俺は小さく舌打ちした。


 ◇


「「「「武装展開!」」」」


 俺たちは戦闘準備をし周囲を警戒する。


「慎重に行きましょう」

 咲耶が、気持ちを落ち着けるように小さく息を吐いた。


 廊下に出ると、夜の船内は驚くほど静かだった。


 非常灯だけがぼんやりと床を照らし、長い影を作り出している。


 他の乗客たちは、当然何も気づいていない。


 俺たちは、互いに背中を預けるようにしながら、ゆっくりと歩を進めた。


 だが――


「……何も、おらへんな」

 隼人がぽつりと呟く。


「また海から来るのか?」

 俺は甲板から海を見渡す。


 どこにも敵の気配はなかった。

 甲板も、通路も、レストランフロアも、すべてが異様なまでに静まり返っている。


「どこかに潜んでる……ってことですか」

 咲耶が弓を握り直す。


「何処にもいない……僕の目に見えないなんて……」

 雨宮に焦りの色が見える。


 張り詰めた空気だけが、ひたひたと船内を満たしていく。


「なあ……もしかして……見えているんだとしたら?」

 俺の声は強張っていた。


「なにを言うとんねん?」

 皆も立ち止まり、耳を澄ませる。


「何か変な感じがします……」

 咲耶の言葉に五感を集中させる。


 ――船の“揺れ”が、ない。


 さっきまでかすかに感じていた航海中の揺れが、今はまるで止まっているかのようだった。


「これ……見てみぃ」隼人の指がかすかに震えながら、甲板の下を指していた。


 俺たちは甲板から下を覗き込んだ。


 見た目には気づきにくいが、この船の周囲だけ、波がまるで凪いでいるようだった。


「はじめから見えていたんだ……」

 雨宮がポツリと呟いた。


 そう、俺たちの乗るこの船は――海ではなく、巨大なスライムの上に浮いていた……



 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ミッションの発生頻度が高すぎる… 壺が原因なんでしょうけどただのお使いにしては割に合わないですねw
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ