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第15話 強欲の石

 あれから2週間経ち、俺はいつもの公園で竹刀を素振りしていた。


 この間の戦いで、避けることも大事だが、

 受ける、流す等の技も必要だと感じたからだ。


 ホントは道場に通いたかったのだが、資金的に厳しいので

 剣道入門の書籍と竹刀だけ購入し練習していた。


 そろそろバイトを始めたいのだが、当面は貯金を切り崩す

 ことにした。


 書籍と動画を見て、見よう見まねで練習している。

 足さばき、竹刀の素振りを、ひたすら繰り返していた。


 まずは基本の足運び。

 前に踏み込む、後ろに下がる、左右にステップ。

 一つ一つの動作を意識しながら、丁寧に繰り返す。

 慣れてきたら、素振りと合わせて動く。


「はっ!」


 気合を込めて竹刀を振る。

 まっすぐ打ち下ろすことを意識し、体全体を使って振り抜く。

 打ち込むたびに竹刀が空を切る音が響く。


 足の動かし方に1時間、素振りに1時間。

 同じ動きを繰り返すことで、少しずつ体に馴染んでくる。

 だが、まだまだぎこちない。


 もともと体力はないので、これくらいで限界が来る。

 竹刀を握る手がじんじんと痺れ、腕は重くなっていた。


 学生時代に何か部活でもやっておけばと、今更ながら後悔している。

 俺は常に帰宅部に在籍していた。


「はぁ……」


 竹刀を肩にかけ、大きく息を吐く。

 汗が額を伝い、首元へと流れていく。

 手のひらを見ると、すでに皮が剥けそうなほど赤くなっていた。


 俺は再び竹刀を握り直し、もう一度構えを取った。



 最近気づいたのだが、レベルが上がることで力は強くなっているのに、見た目に変化はない。

 ステータス画面での“ちから”は、筋肉量とは関係ないようだ。

 力こぶを作って触ってみるが、カチカチには程遠い。


 そして、素振りの後に腕がだるくなり、筋肉痛になりそうな気配はあるのだが、次の日には完全に違和感がなくなっていた。

 おそらく筋肉痛も、怪我や疲労同様に回復するのだろう。


 筋肉はつかないのかと思っていたが、素振りを始めて2週間。

 ほんのわずかではあるが、腕の筋肉がやや締まってきた気がする。


 筋肉痛にはならないが、筋トレ自体は筋肉になるようだ。

 ただ、今のところステータスに影響が出るほどではない。


(そもそも筋トレでステータスが変化するかも分からないが……)


 この感じだと、“まもり”を上げても肌が硬くなるわけではなさそうだ。


 肉体の回復力に関してはありがたいが、死の危険性が高いくせに割には合わない。

 シゲルや岩屋ほど強くても、相手が悪ければ文字通り瞬殺されるからだ。


 2週間前、練習を始めたばかりの頃は昼間にやっていたのだが、近所の人に変な目で見られることが多く、夜7時以降に練習することにした。


(まあ、毎日昼間に素振りしてたら怖いよな)


 公園の時計が目に入る。時刻は9時。


(そろそろ帰るか)


 腕の疲労も出てきたので、今日は終わりにしようと公園を出ようとした。


 ——そのとき。


 警報音が鳴り響いた。


 ピピピピピピピ——


 きた!


 俺はすぐにライブラを確認する。


【ミッション】

 回収依頼:強欲の石×4

 ランク:G

 人数:1

 期限:1日

 場所:地図を表示する


「回収依頼? ランクGってことは、難易度は低いってことかな?

 この“強欲の石”ってのを回収すればいいのか……」


 あちこち押してみるが、“強欲の石”の情報は出ない。

 見た目、色、特徴も分からず、画像もなかった。


 場所を確認すると——


 オークと戦った場所にピンが刺さっていた。


 回収だから戦闘もないって思っていいのか……?


 念のため、一度部屋に戻り、ネットで購入したナイフと懐中電灯を持っていくことにした。


 ———————


 この場所に来るのは3度目になる。


 現地にはすぐに着いた。


(前に来た時、気になるものなかったけどな)

 思いながらも探してみる。


 川辺の砂利を足で蹴りながら、一つずつ注意深く確認する。

 手のひらで砂を払いながら、目立つ石を拾っては裏返し、

 懐中電灯を当てて確かめる。


「強欲の石って、どんな感じなんだろうな……」


 一つ一つの石を吟味しながら探していると、

 ライトの光に一瞬何かが反射したような気がした。

 その周辺をさらに慎重に調べる。


 飴玉くらいの赤い宝石のような石を見つけた。

(これのことかな?)


 さらに手を砂利に突っ込み、指先の感触で違和感のあるものを探る。

 次々と石を持ち上げ、光に透かしてみると、

 すぐに似たような石が3個見つかった。


 これで四つ。


「で……? この石、どうすればいいんだ?」


 ライブラを取り出すと——


【任務に参加しますか?】


 ……任務を開始するのを忘れていた。


 参加すると、どこからともなく明るい曲調の音楽が流れ、

 ライブラに“ミッションクリア”の文字が浮かび上がった。


(モンスターは参加するまで出ないのに、石はミッションに参加しなくてもある……よく分からないな)


 そう思いながら画面を確認すると、新たなメッセージが表示された。


【クリア報酬】


 強欲の石×4


 ライブラを確認してみると、いつものステータス画面に戻っていた。


(やっぱり寿命貰えないこともあるんだな...)


(Gランクだからか? それとも回収系のミッションには寿命はつかないのか?)


 強欲の石を調べるようにクルクルと角度を変えながら見ている。

 ただの宝石にしか見えない。


 何かに使えるのだろうか?


 思いっきり足元に投げつけてみた。


 数回低くバウンドしたあとゆっくりと転がった。

 何も起こらない


 思いつき、もう一度試してみる


 意識を集中し「強欲の石」と叫び、もう一度足元に叩きつける。

 何も起こらない


 数回低くバウンドしたあとゆっくりと転がった。


(…………)


 ————何も起こらない、どうやらただの石の様だ。————

 脳内に某ゲームのメッセージを連想させた。


 周囲を見回し誰もいないことを確認する。

 急激に恥ずかしさが込み上げてきたからだ。


 石を拾い帰ることにした。


 アパートへの帰り道、いつもの牛丼屋で食事をする。

 カウンターには牛丼の特盛が丁度、運ばれてきたことだ。


 紅しょうがをたっぷりとのせ、一気に掻っ込む。

 甘じょっぱい味の中にピリッとしたアクセント。

 相変わらずのうまさだ。


 ミッションは今の所、月に1〰2回といったところだろうか?

 今日ミッションをこなしたから、2週間くらいはでないだろう。


 大まかにでも発生する間隔が分かるなら、

 なんとかバイトができないかなと考えた。


 当面問題ないとはいえ、ある程度しぼれるなら、

 10日ほど可能な限り詰めてバイトして、一週間ほど休む

 かなり変則だが、出来ないことはない。


 収入的には全然足りないが、足しにはなるし...

 どちらにしろ頭打ちにはなるのだが


 ミッションをクリアし寿命を確保することも大事だが、

 同時に生きるための金も必要だ。


 先のことを考えると気が重い。

 思わず大きなため息をついてしまう。


 ポケットからさっき手に入れた石を取り出す。


(売れたら生活費の足しになるんだけどな)


 そう言いながら石を見ていた。

 ただの宝石にしか見えないが、なぜか手に取ると妙に手放したくなくなる気がする


 ”強欲の石”奇麗な石だが名前のせいなのか、どこか禍々しく光って見えた。


 ♦


 あれから、一週間ほど経過した。


 外はまだ闇の中。街も人も、すべてが眠りに沈んでいる時間。

 そんな静寂を、けたたましい音が突き破った。


「っ……!」


 耳をつんざくような異音が、突如として部屋を支配する。

 いつものミッション音ではない。

 それは、明らかに異常な警報音だった。


 鼓膜を引き裂くような鋭い音が、脳を直接突き刺す。

 非常ベルと警笛を無理やり混ぜたような、耳障りで不吉な響き。


 全身が跳ね起きる。

 喉が縮こまり、呼吸が浅くなる。

 冷たい悪寒が、背筋を這うように走った。


(何だ……これは)


 思考がまとまらないまま、枕元の鞄へ手を伸ばす。

 ライブラを取り出して、光る画面を覗き込んだ。


 そこに浮かんでいたのは――


【ミッション:強制参加】

 場所:転送


 その下に、恐ろしい文字列が続いていた。


 転送まで あと3秒


「……っ!」


 部屋はまだ夜の匂いを残したまま、空気だけが鋭く張り詰めている。

 叫ぶ暇も、考える余地もないまま――


 運命のカウントダウンが、容赦なく始まっていた。




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