第13話 その後
夢を見た。
無数の化け物と騎士たちが、地に点々と倒れている。
俺の足元にも、一人の男。
遠くの方から怒号が聞こえた。爆発音も。
俺はその男の前に跪き、そっと瞳を閉じさせた。
視界が暗転する。
次の瞬間には、また違う光景が広がっていた。
気がつくと、洞窟の中にいた。
先ほどまで確かに外にいたはずなのに――。
目の前には、巨大な大蛇。
その顎が開かれ、こちらへ迫ってくる。
また視界が暗転し、次の瞬間にはまた違う光景が広がっていた。
息が詰まりそうになる。今度はどこだ……?
視線を落とすと、目の前の樹木から蔓のようなものが伸びてきて――
俺を絡め取ると、ゆっくりと引きずっていく。
樹木が……口を開いた。
そして俺は、吸い込まれるようにその中へと飲まれていった。
今度は……
今度は……
今度は――
生々しく、あまりにも“リアル”な夢だった。
♦
目を開けると、見慣れた天井があった。
明夫さんの家だ。
身体には手当てが施されていた。
一人だったら、ここに戻ってくることはできなかっただろう。
二人が助けてくれたのだ。命を――繋いでくれた。
所々痛みを感じるが問題はなさそうだ、これなら明日には治るだろう。
そっと身を起こし、リビングへ向かう。
いつものようにソファに腰掛ける二人の姿があった。
俺に気づいた誠が、目を丸くする。
「英斗さん、まだ……起きちゃだめですよ」
「立って大丈夫なのか?」
明夫さんも、驚いたように顔を上げる。
「一人で行くって言ったのに……おかげで助かりましたよ、ほんと、もう駄目かと思った」
何度お礼を言えばいいのか、分からないくらい感謝している。
明夫さんがテレビを消し、言う。
「まあ……無事なら、いいけどよ」
誠が伸びをしながら、ゆるく笑う。
「そうそう、ほんと無事だったから、よかったっす」
「……心配かけて悪かったな。ありがとう」
そんなやりとりのあと、明夫さんが腕を組む。
「で、なんで飛び降りたんだ?」
続けて誠も、首をかしげながら言う。
「ホントっすよ。橋から急に飛び降りるなんて……」
言われた瞬間、全身から力が抜けていくのを感じた。
明夫さんが立ち上がる。
「俺たちに言えねぇ悩みでもあったのか? 水くせぇじゃねぇか」
なにがあった?俺が意識を失ってる間にライブラを見たのか?
違う……いや、待て。考えろ。よく思い出せ――。
看板……店の看板……。
店の看板、俺は店の看板のことをバイトの全員に聞いた、あの日店にいなかった子にも...
全員覚えていなかった。
あの日ミッションをクリアした何者かが、一人一人にライブラを見せて回ったのか?
店にいない子にまで?
今日は人目に付いてもおかしくない場所でミッションが発生した。
バイト先でもそうだ、
頻繁に街中でミッションが発生している?
なのに目撃情報が少なすぎる...
ミッションを終了すると、ライブラに関する記憶が改ざんされる...
答えに辿りついたとき、胸の奥が冷たくなり愕然とした。
生き延びたことへの喜びよりも、
ミッションクリアの達成感よりも、
何よりも強く――
喪失感が、心を支配していた。