ひとまずは難を逃れたわけで。
『……はぁ? あんた嘗めてるわけ? ちょっと帝さまに可愛がられてるからって、この女御に上から目線でもの言ってんじゃないわよ』
ともあれ、果たして私の提案にありありと嫌悪感を示す女御。まあ、それもそうだろう。女御よりも格下である更衣――更には、妬ましくて憎くて仕方のない桐壺の口から、このような屈辱とも言えそうな提案をされているのだから。それでも、流石に状況が状況だけにどうにか声量は抑えてるようだけど。……うん、ひとまず一安心。
それでも――果たして、最終的には承諾の意を示してくれた。もちろん、計り知れないほどの葛藤はあっただろうし、私に対する憎悪もいっそう強くなったかもしれない。それでも――桐壺の口添えがあれば、自身に対する帝からのお召しの機会が得られるであろうことは、どれほど悔しくとも認めざるを得なかったはずだから。
それに、機会さえ得られたならこちらのものという自信もあっただろう。たかだか一介の更衣たる桐壺などより、格も高く誰よりも美しい女御の魅力に帝さまは気が付くはず――きっと、そのようなプライドもあっただろう。
ともあれ、彼女の協力――まあ、協力と言っても他のお妃達の嫌がらせに加担しない、というだけの話なんだけど――ともあれ、そんな彼女の協力のお陰でひとまずは難を逃れたわけで。