止めてほしいよねそういうの。
「……はぁ、ほんと滅入る」
それから、数日経た宵の頃。
そんな暗鬱とした呟きを洩らしつつ、清涼殿へと向かう廊下を歩いていく私。……別に、帝と会うのが嫌なわけじゃない。ただ、この廊下を通るということは――
――ガチャン。
「……はぁ」
少し後方――つい先ほど、私が通った扉がガチャンと閉まる音がする。まあ、これも筋書き通りなので分かってはいたけども。
さて、これで終わればまだ幸いなのだけど……まあ、そんなはずもなく。そもそも、一時的に帰り道を塞いだくらいじゃほぼ嫌がらせにもならないし。
なので、当然ながらこれに留まらず前方――清涼殿へと向かう方の扉にも鍵がかけられ、この区切られた廊下の中に閉じ込められてしまうことになっていて。
……ほんと、止めてほしいよねそういうの。これじゃロクに寝れもしな……いや、大丈夫かな? この熱くて重苦しい重ね着の何枚かを布団にすれば、一晩くらいはなんとかなりそうだし。
まあ、そうは言ってもやはり部屋で眠るに越したことはない。恐らくは、控えめに言っても半分くらいこの状況の原因とはいえ……それでも、あれほど深く桐壺を愛してくれてる帝に淋しい思いをさせるのも些か忍びないし。なので――
「――っ!? ちょっと、何で閉めないのよ!」
もう宵だというのに、何ともけたたましい声が後方から届く。一方、そんな叫びを余所に開いたままの扉を悠然と進む私。そして――
(……ありがとうございます、女御さま)
(……うるさい、お礼なんていいわよ。ただ……忘れないでよね、約束)