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……うん、折角なので――
「…………あれ」
ふと、ポツリと呟く。そんな私の視界には、見慣れたはずの――なのに、もう暫くご無沙汰な気がする白い天井。そんな光景に、嫌でも何が起きたのかを理解する。
「…………帰って、来たんだ」
そう、ポツリと呟く。そんな私の手には、栞の外れた源氏物語がそっと握られていて。
ともあれ、転がったまま徐に枕元へ手を伸ばす。そして、お馴染みの電子機器――スマホを手に取り画面を確認すると、日付は6月11日。……うん、何の不思議もない。――あれが全て夢だとすれば、何の不思議もない。
「――おはよう、帆弥。朝ご飯できてるわよ」
「うん、ありがとママ」
それから数分後、階段を下りリビングへ。すると、届いたのは明るい母の声。……なんでだろ、昨夜聞いたはずなのに、随分と久しぶりな気がして。
「……どうかした? 帆弥」
すると、私の様子に異変を察したのか、少し心配そうに尋ねる母。……しまった、表情に出てたかな。……でも……うん、折角なので――
「……あの、ママ。その……つい最近、急に時間が飛んだり人物が変わったりしなかった?」
「何言ってんのこの子⁉」