願い
すると、不意に届いた思い掛けない申し出にポカンと口を開く私。……えっと、願い? なんで?
「お主には、随分と楽しませてもらったからのう。この誉れ高きわしからの、ちょっとしたお礼じゃと思ってもらえば良い。
……まあ、願いと言ってもあくまでこの世界――源氏物語の世界にて、ある一部分を書き換えるとかそういった話でしかないのじゃが。そうじゃな……例えば、ある人物の位を大きく引き上げるとか」
「……いや、アリなのそれ?」
そう、何とも白々しい口調で話す神様につい可笑しくなってしまう。いや、アリなのそれ? まあ、無茶苦茶なのは今に始まったことじゃないけど。……ただ、それはそれとして――
「……最後、か。やっぱり、もうお別れなんだね」
「おや、なんじゃ淋しいのかほのみん? わしとお別れするのが」
「……まあ、わりとね」
「……へっ?」
素直にそう答えると、ポカンと呆気に取られた様子の神様。まあ、最後だしね。少しくらい素直にもな――
「……ふ、ふん。わしは淋しくなんてない、淋しくなんてないんじゃ!」
すると、どうしてか私に背を向けそんなことを宣う神様。心做しか、その声は何処か湿りを帯びて……いや、なんのツンデレだよ。まあ、それはともあれ――
「……それじゃ、折角だし最後に聞いてもらおっかな。もしかしたら、思ってた以上に無茶なお願いかもしれないけど」