……まあ、言わなくても――
――それから、歳月は経過して。
「……そろそろ、だよね」
六条院の春の町――その一室にて、一人そんな呟きを洩らす。この期間、いろんなことが変わった。桐壺帝と藤壺――実際には源ちゃんと藤壺の息子が冷泉帝として即位したり、明石の君の娘がすっかり成長し東宮の妻になったり。
……まあ、変わったと言っても、それはやはりと言うか……まあ、ほぼ時短の間に行われていたことで。具体的には、優に十年以上が経過した時短の間に。
とは言え、今回は彼の須磨行きが決まった時のように大きく飛んだわけでなく、わりと小刻みに飛んでは飛んで……うん、こっちの方が面倒くせえな。
だけど……今回は、今回ばかりはあの神様の気まぐれというわけでもない気がして。……むしろ、今回はたぶん――
「――少し良いかい、紫の君」
そんな思考の中、静かに襖が開き重々しい声が届く。視線を向けると、そこには声音に違わぬ深刻な表情の美男子――齢40を迎えた源ちゃんの姿が。もはや年齢と呼び方が合ってないかもしれないけど……まあ、私にとってはこれしかないし。まあ、それはともあれ――
「……それで、如何なさいましたか? 源氏の君」
そう、彼の言葉に答える形で尋ねる。……まあ、言わなくても分かるけどね。
すると、深刻な表情のまま頷く源ちゃん。それから、ゆっくりと口を開いて――
「……どうか……どうか、不快に思わず聞いてほしいのだけど……この度、朱雀院の姫君を六条院へお迎えすることとなった」