忘れ物?
「……さて、それでは帰りましょうか貴方さま。先ほど申したように、今後100年は雲の供給を停――」
「なんかしれっと増やしてない!? いやじゃいやじゃいやじゃ〜! お前の作る雲がなきゃ、わしゃ生きていけんのじゃ〜!」
「…………そう、ですか。……全く、仕方がない神様ですね。それでは、今まで私にくださった愛の言葉を国全土に一週間流すだけで許して差し上げましょう」
「おぉ、なんとありがたや! 愛してるぞ天女よ!」
「……全く、調子良いんですから」
ともあれ、そんなやり取りを交わしつつ上空へ去っていくお騒がせ夫婦。まあ、何だかんだ仲良さそうなのは何よりだけど。
「……さて、ごめんね惟光くん。遅くなったけど、改めて源ちゃ……ん?」
そう、随分と待たせてしまって青年へそう声を掛けるも不意に留まる。と言うのも、今しがた去っていったはずの神様がふらふら戻って来たから。えっと、何か忘れ物でも――
「――そうそう、言い忘れておったが光源氏はもう須磨にはおらんぞ。実は、お主が須磨に来てからもう一年ほど経過して――」
「言わなきゃ分かんないような時短をすんじゃない!!」