ご心配には及びません?
「……ところで、改めてありがとね惟光くん。いろいろ頼んじゃったのもだけど……本当は源ちゃ――光君と一緒に行きたかったはずなのに」
「いえ、ご心配には及びません君さま。確かに、私は光君にお供することを切に望んでおりましたが――他でもない君さまが、光君に逢いに行きたいと仰っているのです。それは、光君にとって最も喜ばしいこと……微力ながらも、私がお力添えしないはずはありません」
「……うん、ありがとう惟光くん」
ともあれ――改めて感謝を伝えると、軽く首を振りつつ恭しく答える惟光。本作にて源ちゃんが須磨へ向かう際、本当に近しいお供の人達を数人だけ連れて行ったのだけど、当然ながら惟光もその一人に含まれていて。
だけど、私の事情でどうにかこうにか京都に残ってもらった。そして、数週間ほど要したものの、どうにか私が邸宅を出ていく手筈も整えてくれて……うん、ほんと感謝しかないよね。
「……あの、ところで君さま。その、今更ではあるのですが……本当に、差し障りないのでしょうか?」
「……ああ、そのことね」
すると、少し躊躇うような口調で尋ねる惟光。なかなかに漠然とした質問だけど、何のことかは容易く察せられる。と言うのも――たった一夜のみだった先の二件とは違い、今回はそれなりの期間を要する。――即ち、それなりの期間、紫の上が何処にもいないという異常事態が発生してしまうわけで。
だけど、もちろんそこは抜かりない。私とて、そこまで考えなしじゃない。そういうわけで――甚く不安そうな彼へ、花の咲く笑顔で告げた。
「――うん、それこそ心配に及ばないよ惟光くん。ちゃんと、身代わりをおいてきたから」
「誰を!?」