【side音弧】ビギナーズラック
「裏宿 音弧」は、今年15歳となったばかりの少女である。そんな彼女は両親を説得して探索者組合(最近はギルドと呼ばれている)からモンスターカードを購入して、東京の【新宿ダンジョン】へ潜っていた。
「氷魔法で攻撃」
「ワオーンッ!」
音弧の召喚しているモンスターは「スノーウルフ」、Dランクの氷魔法が使えるモンスターだ。両親を説得した時に買ってもらった。
「よし、これで三階層に行ける。ん?これは…」
スライムとゴブリンを2体ずつ倒して三階層に進もうとした時、最後に倒したスライムがカードをドロップしていた。ランクは最低だが、 これが音弧にとっての最初に、自分で手に入れたモンスターカードとなる。
「スライム…うん、カバンに入れとこう」
スライムのカードをカバンに入れた音弧は目の前にある階層間を移動するための階段へと降りていき、三階層に足を踏み入れた。
「宝箱見つけた」
三階層に踏み入ってからすぐの時、ビギナーズラックとするにはあまりにも貴重で希少な、黒い模様のついた宝箱を発見した。しかし、音弧は普通の宝箱だと思っている。
ダンジョンにおける宝箱のレアリティは上から順に、虹・黒・金・銀・銅の色や見た目をしている。ダンジョンの宝箱は様々な見た目をしており、レアリティと連動して見た目が変わる場合や見た目が殆ど統一されている場合があり、そういったダンジョンなら目立ちそうな所に模様や目印がある。
このダンジョンの宝箱は後者であったため、経験の浅い音弧にはこの宝箱がどれほど珍しい物なのかが分からなかった。
「罠はない。開けよう」
ただの偶然かあるいは必然か、宝箱を開けた音弧が手にしたのは「天嵐の護聖霊」と種族名に書かれSランクと記載されたカード、海白 春が、転生したモンスターである。
「………嘘でしょ、Sランクの…カード」
この世界、Eランクまでのカードならば一般的な社会人の人が生活に余裕を持って何枚か買えるほどには数多く流通している。しかし、Cランクを超えるカードはどれも値段が何桁も違うため、実物を見ることは少ない。Sランクともなれば尚更だ。
そんなカードが今、自分の手にあることに音弧の思考は止まっていた。
◇◇◇
「大丈夫、大丈夫…」
「天嵐の護聖霊」のモンスターカードをカバンの中にしまった後、音弧探索者組合に寄るために、さっさとダンジョンを出て組合へ入っていった。
基本的にモンスターはダンジョンの中でしか召喚できない。が、稀にダンジョン外でも召喚できるスキルを持ったモンスターカードがある。その可能性を音弧は知っていたため組合が所有する鑑定魔導具を使うために訪れた。
『モンスターカードと料金を入れて下さい』
鑑定魔導具は一回の鑑定につき500円かかる。ダンジョンでは鑑定しないと本当の情報がでてこないモンスターカードもあるのでよく使われる。
『鑑定しています……』
鑑定内容は基本、種族名とスキルの二つが大まかに記されている。スキルは名称のみで効果や説明は書かれていない。モンスターにつけた名前も書かれることはない。
『鑑定内容をプリントしています…』
『鑑定結果をお取り下さい』
「これは…」
そこに記載されていた結果は紛れもなく、「天嵐の護聖霊」がSランクのモンスターカードであり、強力なスキルを持っているというものだった。
「契約、したほうがいいのかな」
モンスターカードを使うには契約しなければならない。契約すれば召喚できて、能力値やスキルを全て見ることができる。契約するためには血を一滴垂らす事で簡単にできるが、契約を解く事はできない。また、人が契約できるモンスターカードは10枚まででありそれ以上は契約できない。
そういったこともあり、契約を軽々しく行う人はいない。Sランクのカードでもなければ。
「よし、契約しよう」
音弧は色々と考えた末に、自分の指先から血を一滴垂らしてカードと契約した。