燻っていたもの
グリーンストーン公爵家は、というか五大公家の書庫は何処も巨大だ。蔵書数は万を超えるほど。そんなだからか稀に禁書・焚書・珍書・古文書やらが紛れ込んでいる。
そして、最近一人称を私に変えている、というかそうしないと前世の口調が出そうな私は、偶然見つけた禁書を読んじゃいました。どうしようか……取り敢えず、この本は何処かの本棚にでもねじ込んでおこう。そうしよう。
「宝石?」
なんとなくで見た本に書かれているタイトル。どうしてか、目が離せない。無性にこの本が読みたい。私は、禁書をそこらに置いて【宝石の魔導書】を詠み始めた。
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はじめに
私は、■ワール・■ールド■■トというものだ。この本の著者であり、この呪文を創り上げた■ルケ■・■■ー■■の親友でもある。彼の残したたった一つの遺産をここに記すために、私はこの本を書いている。
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ふむ、作者名がわからない上に、文字がぼやけている。読みにくい。しかもこの本、古代文明の文字で書かれていないか?これ、皇帝に献上しないといけないのでは。まぁここにある分にはいいか。
それはそうとして、気になるので続きを読む。
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目次
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まず最初に、この本に記載されている魔法は唯一つ、【宝石昇華】だけだ。それを覚えてしまえばこの本を読み解くのは容易い。
そんな【宝石昇華】は魔法の一種であり発動に魔力以外の、媒体として宝石及び一部の貴金属を必要とする。それも、思い入れのあるものや曰く付きのものなどが好ましい。それらを用意することが、前提だ。
もし無いのならば、一旦読むのをやめて宝石を用意する必要がある。
さて、ここからは宝石を持っていることを前提にして書かせてもらう……
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この本の内容は想像以上に面白かった。最高だ。これはこの世界を大きく変えると思う。なぜって、ありとあらゆる宝石をアーティファクトにしてしまうのだから。その宝石が何等かの逸話や伝承を持っていないと強力なアーティファクトにならないらしいが、アーティファクトを創り出せる時点で凄いことだ。宝石ならばダンジョンで拾った琥珀を使えばいい。あの琥珀ならば誰にも迷惑をかけずに試せる。
あぁ、突っかかること無く疑問の一つ感じず、読んでいるこの本の内容が頭に、脳にスルスルと刻まれていく。理解できる。あっという間に読めていく。そして、「楽しい」「面白い」という感覚から、理解が進むにつれてこの魔法がとても素晴らしいという事を分かっていく。
「ん?」
そんな本を読み進めていくと、気になる部分があった。
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………私達が創り上げた【宝石昇華】のテストをしていた際、呪いの宝石と呼ぶべき非常に強力なアーティファクトが作成された。これらは強力な性能と引き換えに【宝石昇華】を行使しなければ決して扱うことはできない危険な代物である。
万が一、この本を読んでいるものが見つけた場合、速やかに処理してほしい。処理方法はあなたの自由だ。
自分のものとして保管しても、破壊しても、【宝石昇華】が使えるならば宝石を使用してくれても構わない。………
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なんと!それは少し欲しい。なんというか、最近まで燻っていたはずの好奇心が、ここで一気に燃え上がった。そして、私の夢が決まった。この『呪いの宝石』を全部集めてしまおう。手に入れてしまおう。そのために探索者になる。
あぁ、夢ができるとはこんなにも世界が変わるのか。この本の著者には感謝しないと。今日、ここで、人生の行き先が決まったのだから。さあ、今のうちから準備しよう!
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部屋に戻った私は、探索者として必要そうなものを箇条書きにして改めてみた。取り敢えず、不要そうでも書いてはおく。あと、解決策になりそうなものも書く。
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・何等かのアーティファクト
∟【宝石昇華】で作る。
・探索者としての資格
∟探索者は12歳からだからまだ無理。あの時は先生同伴だったし、公爵家だから出来ただけ。
・戦闘技術
∟もう少し先生に習う!
・魔法
∟現状、第二階梯の魔法までを習得済み。先生が教えられる魔法を全部覚える!確か第五階梯だったはず
・異能
∟先天性のため無理
・道具
∟ロープ、光源、鞄など足りないものが多い
∟地図は書庫にある。持ち出す予定
∟鞄はアーティファクトに欲しいものがある。なんとか手に入れる。無理なら代替案を使う
∟光源は魔法でなんとかなる?
・知識
∟書庫の本をさらに読む。全部読む。
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うーん、多い。でもこれくらいは必要なはず。あとは、探索者の常識と一般階級の常識、他の情報などが圧倒的に足りない。それにあと、五年ほどで十歳になり学園に入学するから、そこがタイムリミットかな。
まだまだ私は子供だから、もう少し大人の庇護下に置かれておこう。そして時が来たら家を出て探索者になるぞ!