探索者
探索者組合はかなり目立つ。というのも緊急時の避難用としても使えるように頑丈で大きな建物だからだ。レンガ造りの3階建ての建物である。
それぞれに用途が有り、一階が受付・酒場・倉庫等で最も広い。二階が会議室や資料室、職員の業務を行う場所、三階が探索者組合の責任者が仕事をする場所らしい。と仲間が教えてくれたのを今になって思い出した。
少女はローブを深く被って顔を隠しながら、態度は普通に探索者組合の扉を開けて中に入る。
受付は三箇所有るが上に案内が書いているので迷わない。少女は迷わず新規登録用の受け付け窓口に向かう。少女に対して、奇異の目はない。
この世界、10歳で探索者になる者も普通にいるのだから12歳ほどの身長の少女は特に珍しくないのだ。それと、身長が低かったり、老化が極端に遅い種族がいたりするので見た目で判断できないということもある。
「はじめまして、新しく登録をするということでよろしいですか?」
受付嬢は基本的に引退した元探索者である事が多い。その中でも事務仕事や受け付けに向いている人材を組合に積極的にスカウトしている。
この受付嬢もまた、元は黄玉級の探索者であり、この少女がまだ探索者組合に入っていないことを一目で理解した。
「お願い」
「かしこまりました。登録料は1000レアです……はい、丁度ですね」
少女がお金を渡すと受付嬢が紙を持って渡してきた。
「それではコチラの紙に必要事項を書いて下さい。代筆が必要な場合は書きますので、お伝え下さい」
「大丈夫、書ける」
少女の知らない人相手では途端に語彙の少なくなる会話も笑顔を絶やすこと無く聞いている。こういった事を差も当然のようにするのだから、この受付嬢は組合からも探索者からも男女問わず人気が高い。
そんな受付嬢は、声と背格好から、目の前の少女のことについて考えていた。
(名前の欄を飛ばして書いている。脱走した奴隷か何かかしら?でも文字が書ける…普通は奴隷に文字は教えないから違う?でも高級奴隷は文字を学ぶそうだし……よくわからないわね。本人に聞くしか無いけど、それは駄目よね…)
受付嬢が少女が名前の欄を飛ばして紙に必要事項を書いているのを見て、色々と考えを巡らせている時に少女は自分の名前を考えていた。
(名前……どうしよ、名前なんて無い。え~と、んー名前…カルセドニー…カル?なんか違う……そうだ「ルセ」にしよう。)
少女は名前がなかった。これまで無くても何の問題もなかったからだ。しかし、必要となって……「ルセ」は今、自分で決めた名前を紙に書く。自分の持っているアーティファクトのカルセドニーから取った名前だ。それを書いて欄を埋めた紙を提出する。
「ん」
「はい、それでは…ルセさん、これから探索者としてよろしくお願いしますね」
「よろしく」
「探索者の説明についてはコチラの冊子を読んでおいてくださいね」
「ありがと」
ルセはイリスから冊子を受け取った後、近くにあった空いている椅子に座って冊子を読み始めた。そこに書いてあったことはまあまあ多かったが、今必要そうなこととしては、
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○探索者は階級によって分けられる。階級が高いほど多くの依頼を受けられ多くのダンジョンに入ることができ、依頼達成時の報酬が高くなる。また、一定以上階級が高くなると、より多くの情報を閲覧することができる。
○探索者の階級は下から順に石板・黒鉄・水晶・青玉・黄玉・翡翠・紅玉・赤銅・白銀・黄金・白金・金剛の12階級存在する。
○探索者が階級を上げるには条件や試験がある。基本的に青玉までであれば条件を満たすことで直ぐに昇格できるが
黄玉以降は、試験が必要になる。
○探索者は、階級毎に一定期間依頼を受けないと、特殊な事例を除いて階級の降格あるいは探索者資格の剥奪が起こる。
○探索者組合では駆け出し探索者用に武器や防具の貸し出しをしている。返却した場合は料金の半分を返すが、返却できないか破損した場合は返金はなく、更に弁償代を払わなければならない。
○アーティファクトの所有権は最初に見つけた人物にあるため、不当に奪うことは犯罪になる。ただし、探索者組合にアーティファクトを所持していることを報告していない場合は犯罪だと確証させることが難しいため注意が必要。
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(他にもあったけど、この冊子の情報はこれくらいかな。さてと、私の階級は石板だから…なるべく近場で、アーティファクトを使ってもバレにくそうな……いや、まずは他にも情報を見ておいたほうがいいかな)
ルセは冊子を何度か読んである程度覚えた後、2階にある資料を置いてある場所に入り、魔物の生態や特徴、武器の教本、魔法の入門書などを読んでいく。特に魔法関連の本は隅から隅まで、頭に刷り込むように読んでいった。
ある程度読んだところで1階に戻り、依頼が貼ってある掲示板の前である程度見てから、自分にとって条件が良さそうな依頼を幾つか見つけて、その内の一つを受けた。