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保管資料室  作者: 黒薙神楽
呪いの宝石と白月姫
18/29

八百萬屋

「でも、怪我を治さないと。こいつらは持ってないか……あった」


 少女は、怪我を治すために死体から使えそうなものを拝借することにした。すると、思いがけずいいものを手に入れた。


「これをかければ、治る」


 軍隊の正規装備は、サーベルと銃、鞄とその中にポーション・方位磁針等などであり、その中でもポーションは患部にかけるか服用することでそのポーションの効能分の怪我を即座に治すことができる、魔法薬である。


 少女は、死体から鞄と残りのポーション2本、方位磁針や比較的使えそうなものを持っていける分だけ鞄に入れて持っていった。


(さっさとここから離れよう)


 周りに気を使いながら、この場を後にする。爆発音や銃声が響いたのだから、獣か最悪だと魔物が近寄ってくる可能性があると考慮してのことだろう。


 そして、少女はなるべく気配を消しながら、金になると仲間に教わった薬草らしきものを採取しながら、街の方へと向かっていった。




◇◇◇



 街に入るためには身分証を提示するか通行税を払わなければならない。しかし、少女は、スラム出身の者は身分証なんて持っていないし、金もない。だが、少女の住んでいたスラムは要塞都市の周りにできていたが故に、要塞都市にスラムの住人は偶に来ていた。そのために人一人が入れる程度の目立たない穴。そんな、抜け穴を用いている。



 しかし、基本的にスラム街の住人は古びた服しか着ていないので直ぐにバレる。そこで仲間と一緒にいた拠点とは別の場所、そこに隠していた、少し埃被った全身を覆えるくらいの黒いローブと帝国通貨(1000レア)を持っていった。


 そして、少女はバラック建ての粗末な建物の隙間を通り、もう人のいないスラム街を駆け抜ける。そして十数分程度で目的の場所に着いた。


(良かった。ここはやっぱり見つかっていない)


 それは、少女しか知らない秘密の抜け穴。ボロ小屋で塞がれ、雑草の生い茂った先にあり、通った先は暗い路地裏なため誰も気づかなかった。大半はあの一掃指示で見つかって塞がれたらしいが流石にこんなところまでは見ていなかったらしい。



 この要塞都市はかなり古いが極めて頑丈ため、あちこちに気づかぬうちに穴ができても特に問題ないくらいなため放置されており、そこかしこに要塞都市に出入りできる抜け穴があまりにも数多く存在してしまっている。


 毎年行われる点検もあるにはあるが、腐敗している上層部が"どうせまた穴が空くから"と経費をケチってやらない事が殆どである。やっても適当だ。今回もそうだったらしいのでそれだけはありがたい。




(久しぶりに街に来たな。確か前は…2年くらいだっかな。かなり前になるが店はまだやってるはず)


 少女は要塞都市に入った後、最初の目的地として、誰であろうと差別しないことでスラム内でも有名だった変わり者が営む店、【八百萬屋】へと向かった。




 【八百萬屋】はよろず屋であり、様々な商品が適正な値段かそれより少し上下した値段で雑多に販売されている。その商品レパートリーは剣・弓・銃火器・魔物素材・食料品・魔道具・衣服・ポーションと文字通りのよろず屋である。後、どんなものだろうと買い取ってくれる。


「…いらっしゃい」


「買い取りを」


「そこに出してくれ」


 無愛想な店主に言われたとおりに、少し物が多すぎる店の間を通って、受付の台に買い取ってもらう物を置く。

 買い取りに出したものは軍隊の指定装備として扱われているサーベルと銃がそれぞれ一つ、方位磁針二つに街に来る道中に採取した赤黒い草が10本である。


「こいつは……少し待ってろ、鑑定する」


(通報、されるか?警戒しておこう)


 席を外した店主に警戒した少女は、いつでも逃走できるように動線を確認し、アーティファクトの効果をいつでも使えるようにする。



 しかし、そんな少女の警戒は必要なかった。店主はすぐに戻ってきてこう言った。


「サーベルと銃はそれぞれ8000レア、方位磁針は二つで5000レアだ」


「草は買い取れないのか?」


「いいや、買い取るさ。この赤黒い草は"マナトール草"と呼ばれる貴重な薬草だった。こいつは十本一束で3万レアになる」


(そんな値段になるのか…)


「それで買い取ってくれ」


「あぁ分かった。それと勿論、入手先は秘密にしておく」


 思いの外、高額な薬草も売却して合計で51000レアを店主から受け取り、店で売っていたかなり書き込まれた地図と服とローブを併せて6000レアで購入して、店を出ていった。



(あの店主、他人に対して一線を引いてるかのような態度だったな。こんな怪しいのにあまり踏み込んでこなかった。やっぱり変わり者だ)


 そんな事を考えながら買った服とローブに着替えた少女は、前の服とローブを路地裏に捨てて、探索者組合に向かって歩き出した。



 その道中、恐らく逃げきれたなかったのであろう、スラムの住人が奴隷として扱われているさまを足を止めて見ていた。しかし、少女は怒りなどではなく違う感情を持って見ている。


(もしかしたら、私はあんなふうに奴隷になっていたかも知れない。あの時、アーティファクトを手にできていて良かった)


 それは、もしもの未来を考えていた。しかし、その考えもさっさと辞めて、探索者組合に向かうために足を動かす。



 そうして歩いていると、元探索者だった仲間が何かあった時のために教えてくれていた、探索者組合らしき建物を見つけた。

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