第169話 紗夜物語20
「二日間の料金払っといたから、ゆっくりしといて。私は明日から少し出かけるから、三日後にこの宿前集合で。朝7時ぐらい、くれぐれも遅れないようにっと。」
よし、これでOK。多分みんな起きてるし、一方的なテレパシーで伝えといたから問題ない。
あっ、そういえば私がお金預かってるんだった……。
まぁ、いっか。どうにかするでしょ。これも試験とか言って楽しみそうだし。
「ふぅぅぅぅわぁぁぁぁぁ。」
私は大きなあくびをして、そのままベッドに飛び込み気絶するように寝てしまった。
一応チェックアウトが9時なのでそれまでに起きれば大丈夫。
多分、謎のパワーで必ず起きられるはずだから気にしないで起こっと。
次の日。
……。
……。
8時50分起床……。
あと10分しかねぇ!!
確かに9時以降に起きるということはなかったが、さすがにこんなにギリギリに起きるなんて想定外。
これならば目覚まし魔法をかけて朝からのんびり支度するべきだった。
ってこんなこと考えてる時間がもったいない。
さっさと着替えてでないと!!
こんなことなら、この街でゆっくりすれば良かった!!
私は慌てて着替えて鍵を持ってエントランスに行き鍵を返して宿屋を出た。
そして、カヤの魔力感知範囲外に出てあまり人気がないところで私はある魔法を発動させる。
「遠くよ遠く。四方八方どこまでも天にまで伸び、あられもなく現れ、人々は喜びと悲しみに包まれることであろう………………いざ、舞い上がれ。転移!!」
「いい気持ち……。」
この感覚、匂い、景色……。久しぶりだな。
正直当分来ることは無いと思ってたけど、今日は母親の命日。たまには父親に会いに行ってあげようと思ってやってきたのだ。
決してパーティーを見て、誰かと一緒というものが素晴らしい。と気づいたからではない。
ぽっと思い出しただけだ。
確か、この道をこのまま真っ直ぐ行ってっと。
エルフ以外が来れば何も分からない森の中を迷いもせずに進んでいく。
この森は子供の頃から何度も通った道なので、我々エルフからすればすぐに分かるし、そもそも魔力感知があるので迷うはずがない。
私が住んでいた里はあまり外で暮らすという文化が無いため急に帰ってきたら村長当たりが気がついて来るかと思ったがそうではなかった。
誰もこちらに向かってないし、魔力感知をしても皆当たり前のように過ごしている。
ほんと平和という言葉が一番当はまる場所だ。
どんどん進んでいくと里の集落が見えてきて、外で遊んでいた子供は私の顔を見て何故か走り去っていく……。
「誰か来たぞ。尊重だ、村長呼ばないと!!」
「お母さんがね、知らない方を里で見かけたら逃げるように言ってたもん。」
「早く知らせないと!!」
私はこの里のルールも破ったことがないし、別に悪いこともやっていないのにあの態度を取られるとさすがに悲しいよ。
しかも、大人はその光景を見て笑ったり驚いたりしているだけで誰も私を助けようとしない。
そもそも里に帰るの自体500年振りだから、知らない方々もちらほら見える。
私はそのまま自宅に帰宅しようとしたが、村長が見え始め明らかに私の方に進んでいるのでここで待つことにする。
その後ろには村長に隠れてる子供たちがわんさかといる。その顔は心配し、オドオドしていてなんだか可愛い。
「久しぶりじゃな、紗夜。たまには帰ってこんか、父親が心配しとるぞ!!」
「すみません。色々と忙しくて……。」
「魔術の研究でもして、時間の感覚がバグってたんじゃろ。せめて100年に1回位は帰ってこんか。」
「村長、聞いたお話なんですが、なんでも800年ほど里に帰らなかった期間があるとかないとか。それで、両親がいてもたってもいられなく世界中を探し会いに行ったと聞いたことがあるのですが……。まぁ、村長がそんなことするわけないですよね!! あの優しい村長が!!」
「……。相変わらず痛いところをつくのう。じゃが、その期間があったからこそ、家族の大切さを知り現在ここよ村長としてら頑張ってるんじゃ。今の紗夜に言ってもわからんと思うが、親というものはな子供のことを何時でも心配しとるんじゃ。」
「分かりましたから。200年後ぐらいにちょろっと顔見せるのでいいですか。」
「可愛くないのう。」
「元々です!!」
「それで、どのぐらいいるんじゃ? 孫ができてな、紹介でもしときたいと思ってな。それに、時間があるなら子供たちに修行もつけて欲しいし、どうかのう?」
「明日には飛び立つので無理ですね」
「……。明日? たった1日か? 1年の間違えと違うんか?」
「1日です!!」
「……。そっか……。ゆっくりするんじゃぞ。」
「はい。」
どこか寂しそうに村長はそう告げた。
何故か村長は昔から私の事を心配してくれるのだ。
心の中でありがたいなどと思うことはなく、鬱陶しいしか思っていないのだが、村長の話を聞くと戻ってきたな。という感覚にはなる。
とりあえず、家に帰ろっと。
「ただいま。」
「さっ紗夜!! もしかして、怪我でもして帰ってきたのか? それとも、何か嫌なことでもあったのか? もしかして、家族が恋しくなったからとか?」
「今日命日でしょ。たまたま起きてたからこっちに帰ってきただけ。明日出かけるから。」
「そっか……。お母さんも紗夜が帰ってきて喜んでるはずだよ。紗夜がいない時だっていっつも紗夜の話ばっかり。俺が嫉妬するぐらいにだぞ。でも、そっか……。お母さんが居なくなって1000年経つのか……。早いもんだな。」
お父さんはすごく寂しそうにそういった。
里のみんな仲がいいので家以外で1人になることは無いが、ずっと一緒にいた方が居なくなるのは悲しいものだ。
当たり前にあるものが突然消えてしまうのだから。
そう考えると、今修行しているパーティーともいつかは別れが来てしまう。
特に人族が多いあのパーティーでは、パーティーとしての活動は頑張っても25年ぐらい。
エルフにとってはほんの一瞬。なんだか悲しくなってきたな。
「お父さん、これからちょくちょく帰ってくるから心配しないで。100年に1回は帰ってくるから。」
「楽しみにしてる。」
お父さんは今日一の笑顔を見せてくれた。
さっきまで村長の言ってることが分からなかったが、こういうことなんだろう。
唯一嫌な点はあのパーティーに教わったということだけどね!!
その後は今まで何をしていたのか。とか、こっちの心境などを話してあっという間に時間が過ぎていった。
結局私達は寝ることなく話して気づいたら朝6時になったので慌てて街に転移しようとしたが、何故か転移がはばからる?
とりあえず、近くの森に転移して走ればいっか。
無事だといいけど……。
次回予告
とりあえず、鵺と戦わせてどれぐらい強くなったかな? まぁ、どうせ一瞬でやられるだろう。
えっ、なんで、なんでなんでなんでなんでなんで!!
私の前から居なくならないで!!
次回、紗夜物語21 お楽しみに