第149話 紗夜ちゃんの勇気
はぁ。はぁ。はぁ。
辞めて、助けて……。
ああああああああぁぁぁ!!
はぁっ、夢か……。
謎エルフに追いかけられる上に魔法が一切使えなく、結局こないだ同様に私の腹部に手が貫通するという最悪な夢……。
実際に私のお腹穴空いたんだよな。
穴が空いた場所を触ってみるが、しっかりと塞がっている。
服をめくって見ても傷の跡も無く綺麗なお腹がくっきりと現れる。
「死と隣り合わせの世界だって改めて認識したな。はぁ。この先が不安だよ……。」
「おっ。お姉ちゃん?!」
上半身を布団から出して起こした状態だったが、何故か下半身部分からサリアの声が聞こえる。しかも、いつもより膨らんでいる気もするし。
そんなことを考えていると、サリアが布団からぬくりと顔を出してきて私を抱きしめてきた。
「お姉ちゃん!! 良かった。本当に良かったよ。」
「サリア、お姉ちゃんは絶対にサリアを守るからあんなところで死ねないよ。だから、安心して。」
「絶対だよ。くすん。お姉ちゃん、約束だからね!! 絶対に死んじゃやだからね!! 本当にお姉ちゃんが大変なことになったって思って、生きた心地かしなかったんだから。」
「サリア……。」
泣き叫ぶサリアは私に抱きつき私の服にべっとりと涙と鼻水がついた。以前はサリア……。と思っていたが、最近はここまで泣かせちゃって……。という感情が表にたって申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
私はサリアの頭を撫でながら「ごめんね。」と言うと余計泣いてしまった。
「サリア、私もっと強くなるから。今回みたいに、急な対応もしっかりできるようになっていつでもサリアを守れるようになるから。だから、安心して。」
「お姉ちゃん。私もお姉ちゃんがやられちゃった時怖くて動かなくなっちゃって何も出来なかったのが悔しくて。だって、お姉ちゃんを助けられたかもしれないんだよ。だから……。」
「サリア……。一緒に紗夜ちゃんに修行つけてもらおっか。」
「うん。後、お姉ちゃん。もっとむぎゅうってしていい?」
「もちろん。布団に入ろっか。」
私たちは顔以外布団の中に入って抱きついた。なんだかサリアを抱きついていると、安心するって言うか、心がスッキリする感じがする。
幸せな時間はいつも突然終わりの合図を告げる。
ドンドンドンドンドン。
「アリア、大丈夫?」
ノックした後にこっそりと顔を覗いて見てきたのはお母さんだった。
お母さんはすごい心配そうな顔をしている。
「うん。寝たらだいぶ良くなったよ。多分血を流しすぎたんだと思う。当分は安静にするつもり。」
「そうね。ごめんなさい。私がついていながら守れないで……。」
「お母さんが悪い訳じゃないんだから。油断してた私が悪いんだし。それに生きて帰ってこれたんだから、今後の改善にすれば大丈夫だよ。あれのおかげで次何かあった時生きてられるって思えるようにしないとね。」
「そうね……。あまり無理はしちゃダメよ。紗夜ちゃんと修行するなら必ず私も連れていくように。わかった?」
「分かったよ。」
「朝ごはんはどうする? 二人分もう出来てるけど?」
「お腹すごい空いてるし、食べよっかな。その前に汗かいてるからシャワーだけ浴びちゃうね。」
「わかったわ。サリアもそれでいいのね?」
「うん!!」
「後で二人でお父さんに顔を見せてあげてね。こないだあった話を教えたら、顔が真っ青になってまだ横になってるから。」
「「?!」」
「急いで行かなくちゃ!!」
私は被っている布団をほおり投げてサリアを連れて両親の部屋に行く。
入る前にこっそり覗いたが、お父さんはベットで横になったまま一切動いていない。いつもなら、とっくのとうに起きてるはずなのに。
「お父さん、入るよ。」
「入るよ。」
「?! アリアにサリア!! 良かった二人とも元気になって!!」
今まで寝っ転がっているのが嘘のように、布団を足で蹴飛ばして慌てて私たちの元にやって抱きついてきた。
「良かった……。良かった。」
「お父さん……。」
私たちがいつも知っているお父さんでは無く、安心したような悲しいような顔をして今は私たちを抱きながら泣いている。
お父さんの泣く姿なんて見たことがなかったし、私たちの前ではしっかりしていたので少し驚いたが、何故かお父さんに抱きつかれていると暖かい気持ちになってつい涙がこぼれてしまう。
「お父さん……。お父さん。」
「もう、お父さん苦しいよ。」
「もう少しだけ……。」
抱きついていると、お母さんが「私もっ!!」って言いながら入ってきて家族仲良く抱き合った。この時間はなんだか安心するし、心が芯から温まる時間で忘れなれない一時になった。
そんな時……。
ぐぅー。
「もうお腹すいちゃった。」
「そうね。みんなで朝ごはん食べましょ。準備はもうできてるわ。なんだか久しぶりに家族揃ってご飯食べられるから嬉しいわ。」
「そうだな。よし、朝ごはん食べにリビングに行くぞ!!」
私たちは仲良くリビングに行き、お母さんが作ってくれたご飯を食べた。
ご飯中に紗夜ちゃんの話が少し出たが、お母さん達は帰還して以来紗夜ちゃんとあっていないらしい。二人とも、紗夜ちゃんが自分を責める性格だから。と言ってすごい心配をしていた。
後で部屋に帰ったら、「紗夜ちゃん。」と声をかけるつもりだが、出てこないかもしれない。私たちは結局紗夜ちゃんの罪の原因など一切知らない。唯一知っていることはあの氷漬けをしたということだけだ。後で教えてくれる。と言ってくれているので、待つことしか私はできることがない。
紗夜ちゃん……。
「お姉ちゃん、気分転換に少し歩こっか。」
「うん、ちょっと出かけてくるね。」
心配している両親を置いて、私はサリアと一緒に里内を散歩することに。
「お姉ちゃん、まずはパン屋さんね!! 最近忙しくていけてないから、新しいパンが出てるかもよ!! どんなパンかな?」
「あっうん。」
今日はサリアがよく話しかけてくるな。と思いながらパン屋に到着。
「2人ともいらっしゃい!! 相変わらずホットケーキの売上は順調よ。」
「もしかして、今日は余ってる?」
「残念。もう完売よ。ほんと店頭に出した瞬間無くなるんだから。こんなんじゃ生産が追いつかないわ。」
「せっかく食べられると思ったのに……。食パンとクロワッサン買って帰ろっか。」
「そうだね。」
「そうだわ。今生クリームを使った新作を考えているんだけど、なかなか上手くいかなくてね……。上手くいったら試食頼んでも大丈夫?」
「もちろん!! だよね、お姉ちゃん。」
「うん!!」
「楽しみに待っててね!!」
そうして、私たちはお買い物をしてパン屋を後にして、紗夜ちゃんとの修行場所や畑を散歩して帰宅した。
サリアが話してくれているが、私はずっと紗夜ちゃんの事ばかり考えてしまって少しあら返事になってしまった。
途中、サリアがほっぺを膨らます事があったがいつもみたいな返しが出来ず、サリアが困った顔をしていた。
はぁ。
私はため息をつきながら自室に戻り、紗夜ちゃんを呼んでみる。
「紗夜ちゃん」
「……。」
「紗夜ちゃん……。」
「……ごめん。」
何も無かった空間から紗夜ちゃんが少しずつ色をつけて現れる。
「今回は、私の責任だ。本当にごめん。そして、氷漬けされた子供達を守ってくれてありがとう。本当なら私がするはずなのに……。」
「紗夜ちゃん……。」
「私の罪を話す勇気が無く後で後でとなって結局こんな事件になってしまった……。どこかで逃げていたのかもしれないね。部屋の前にいるみんなを呼んでから話すよ。私の罪を……。」
私の部屋の前で盗み聞きしていたみんなを自室に呼ぶと紗夜ちゃんが語り出した。
「あれは1500年程前のこと……。」
次回予告
久しぶりに外に出なくては行けなくなったが、本当にめんどくさい。家でゆっくり魔法の研究をしている方が何倍もマシ。それに、日光浴びると体力奪われてる気がするし……。
家から出たくないよ〜。
次回、紗夜物語 お楽しみ!!