第146話 死を覚悟
遠くに見えたお母さんは嬉しそうだが、少し不安があるような顔をしていた。
私たちがお母さんに対して手を振ると、お母さんも手を振り返してくれたので、私とサリアは小走りでお母さんの元に向かう。
「「ただいま!!」」
「まだ、ただいまじゃないわよ。しっかりお家に着くまでが試験だから気をつけるのよ。もしかすると、門を出るところまで監視しているかもしれないわ。」
「お母さん、大丈夫だよ。だってね、私とお姉ちゃんもう合格したって連絡もらったんだもん!!」
サリアは少し胸をはって自信満々に答える。お母さんが驚いた顔をすると、サリアは「えへへ。」とすごい嬉しそうな顔をした。
「もう……。普通は何ヶ月か待たないと行けないのよ。二人ともすごいわ。おめでとう。なにか美味しいものでも買って帰りましょうか。」
「「賛成!!」」
「それと、お母さん……。」
「ん?」
サリアはさっきの喜びから一転、悲しそうな声でお母さんに話しかける。
「試験の前はごめんなさい。サリアね。ここで色々と経験して、自分が悪いことしたって分かったよ。もうあんなことしないから……。」
サリアは下を向いてシュンとなっていると、お母さんがサリアを抱きしめながら頭を撫でる。
「大丈夫よ。私もつい言いすぎてちゃったと反省していたのよ……。私もついカッとなってサリアのことを考えずに言ってごめんなさい。」
「お母さん!! ありがとう!!」
サリアはお母さんの胸に頭をゴシゴシと左右に振りながらすごい嬉しそうな声で答えた。
良かった。お母さんとサリアのことだから大丈夫だとは思っても、やっぱりどこかで心配している部分があったから解決してホッとした。
よし、これで気分よく美味しいものを食べられるぞ!! 勇者の件も済んだし、サリアの件も解決。問題視するような子とはもうひとつもない!!
んん!! 心が穏やかでスッキリするとはこういうことだろう。
それに、ちょうど周りの音も止まっているかのようにうるさくないし。いい感じ!!
「お母さん、サリア行こっか。」
「うん!!」「わかったわ。」
……。
ん?
ん!!!!!
目の前の光景に目を疑ってしまった。
何故か私たち以外が時が止まったかのように動いていない。
歩いている方が地面に足が着くギリギリでずっと止まっていたり、馬車の馬が頭を揺らしている途中だったりと普通ではありえない情景だ。極めつけは目の前にある家から鳥が飛び立とうと羽を広げたまま動いていないことだ。
絶対におかしい。
誰かが、私達をこの空間に呼んだのか?
それとも、魔力量が多い故この空間内に残ったのか?
それを解明するためには動かないと分からないが、こんな時は紗夜ちゃんに聞いてみよう。
エルフだけが残された可能性を考えて私はテレパシーで紗夜ちゃんに連絡を取る。
「紗夜ちゃん、これって……。」
「話しちゃダメだ!! これは多分盗聴されてるはず!!」
「あらあら、二人だけでおしゃべりとは随分楽しいことをしてますね。それに、紗夜さん。死んだと伺いましたが、生きておられたんですね。そのおかげで計画は破綻しましたが、早くあなたと会えたと考えればプラスかもしれませんね。」
「「!!」」
テレパシーを盗聴するってことは、必要な魔力量が多い上に線密度が高くほぼ広まっていない魔法のはず……。
それに、私は魔力量が多い関係上相手の逆探知もできるはずだが、何故か今回はできない。
もしかして、私よりも魔力量が高い? いや、ありえない。
この王都で私たち以上に魔力を持っている方は誰もいない。いや、エルフが隠す可能性を考慮するならば100%では無い。
では、校長先生?
それとも、さっきアクセサリーをもらった方?
それとも、全く知らない方?
足音も聞こえないし、魔力感知したところで相手が動いていないし、たくさんの人数がいる王都では判断もつかない……。
今回ばかりは余裕をかます暇がないのか……。
「お姉ちゃん、大丈夫?!」
サリアはお母さんからもう離れていて、すごい心配そうに私の事を見ているがそれに気づける余裕はなかった。
先程聞こえた声が聞こえて以降何も聞こえない。
どこで私たちを狙っているのか? 今まで以上に魔力感知に力を入れて早く見つけないと。お母さんとサリアにいち早く情報を……。
どうしよう、どうしよう……。
あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!! 本当に緊急事態!!
「あっ、紗夜ちゃん!!」
「「!!」」
サリアの声で考えてる世界から現実世界にサリアの目の先を見ると、可愛いぬいぐるみ状態の紗夜ちゃんがいた。
相手はどこかで私たちの様子を見ていて、変なぬいぐるみがやってきたとしか思っていないのか? 紗夜ちゃんは完璧に魔力を隠すことができるので、ぬいぐるみからは魔力を一切感じないが急に出てきたから怪しく見てるはず……。
本当に何が目的なのか?
私たちをどうするのか?
「転移!!」
「「?!」」
「ここは……。」
謎の声と共に私たちは紗夜ちゃんが以前罪と言って見せてくれた氷の世界に移動された。
魔法陣が見えなかったので対処出来なかった。いや、魔法を発生する時は必ず発生するはず、それが無いということは……。
私は地面を見ると、先程私たちがいた足元のコンクリートも一緒に転移されていた。
コンクリートの下に転移魔法でも発生させたのだろう。理論上はできるが、その難易度は桁違い……。
この氷は紗夜ちゃんが凍らせたこともあって魔力が込められており、魔力感知が使い物にならない。
ここの場所を凍らせたことを知っているのは、多分紗夜ちゃんと私たちだけなはず。
一部ではエルフがやったという噂があるみたいだが、確証のない上に誰がやったまではわかっていないらしい。
「あらあら、私があげたアクセサリーしっかり身につけないと意味ないじゃない。多分そちらの可愛いぬいぐるみが紗夜なのでしょ。」
「「?!」」
私は急いで声がした方向を振り向くと、そこにはさっきアクセサリーをくれた同胞のお姉さんがヒールをはきながらコツコツと歩いてきている。
どうして……。
紗夜ちゃんと何があったっていうの……。
「やっぱり紗夜は生きていたのね。それにしても、どうして私に嘘をついたの? せっかくお似合いのアクセサリーまであげたのに。それだけでは足りなかったかしら? まぁ、もうそんなことどうでもいいんだけどね。それにしても、この景色綺麗だと思わない? どう?」
「「……。」」
「あなた達はまだ知らないと思うけど、ここは人族が中心に住んでいた街だったのよ。夜でも明るい街と当時言われていたわ。なんでも、夜でも笑い声が街中に響き渡り、いつでも幸せにしてくれる。という憩いの場。それをこんな形に変えてしまったのは、あなた方がよく知っている紗夜。紗夜がこんなことをしなければ、ここの住民達は健やかに育ち幸せな家庭を築き上げることもできたでしょうに……。この場に居合わせたら方は今も氷の中に閉じ込められたまま。成長もせず、これから作るはずの未来も閉ざされ、いや、それにも気づくことができない。そして、その内の一人の被害者が私の姉よ。」
「「!!」」
紗夜ちゃんがこうしたせいで、彼女の姉の未来はなくなってしまった。そう考えるだけで、鳥肌が身体中をめぐり、魔法と紗夜ちゃんが怖くてしょうが無くなった。
今まで優しく接してくれたのは何故なのか?
何故私たちにこの場所に連れて来たのか?
本当に何があったというのか……。
私は頭が真っ白になり、どうしたらいいか分からなくなった。
グサッ!!
はぁ、はぁ、はぁ、ぶへっ。
はぁ、はぁ。
私の目の前にアクセサリーのお姉さんが急に現れると同時に何故か吐血し心臓の音がうるさくなる。
「あらあら、心臓には行かなかったのかしら。随分手が鈍ったわね。でもここで殺しちゃうから関係ないわね。」
「あっアリア……。アリア!!」
走ってこっちに向かうお母さんと、その場で呆然としているサリア。
ヤバい、意識が遠のいていきそう……。
次回予告
はぁ。はぁ。酸素が……。血が……。頭が回らない。次回予告……。そんな元気は……。
次回、謎エルフvs私たち