第131話 あの時のおじいさん
「絶対に行かないもんね!!」
サリアの声が静かなギルド内に響き渡る。
土下座までしている相手に対して断ると思っていなかったのか、驚いた顔をしている方がちらちらと見えてくる。
私はサリアの言葉を聞いて、ハッとし、申し訳ない精神で動いては相手の思うが壺だ!! と自分の事を反省し、今回はサリアに対応してもらうことにした。
こういう時は私よりサリアの方がしっかりしているからね。
ほんと、申し訳ない精神をどうにかしないと……。疑似体験の前はこんな感情になってなかった紗夜ちゃんのせいにしとこっと。
「お願いだ!! 一生のお願いだ!!」
「そんなの知らないもんね!! お姉ちゃんも行きたくないでしょ?」
「行きたくないね。」
「だって!! 何があっても絶対に行かないんだからね!!」
「勇者様のパーティがあんなに頭を下げても断るなんて……。」
「勇者パーティが頼み込むなんて何者だあいつら。」
「おいおい、あいつらなんて言ったら殺されるんじゃね。」
「ああああああああぁぁぁ!!」
「はぁ。」
こんな空気じゃクエストを受けられそうにないし、明日はゆっくりしたいから、今回は諦めかな。
転移魔法があるからいつでも来れるけど、ここに来る度に嫌な目で見られそうだな……。
紗夜ちゃんに今度、記憶改善魔法でも聞いとこっかな?
「すまんが嬢ちゃん達、手伝ってはくれないかのう?」
「「??」」
冒険者が群がっている奥からそんな声が聞こえた。
どこかで聞いたことがある声なんだけど、いまいち思い出せないんだよな……。
んん? と思い出していると、冒険者たちの間から私たちに声をかけた方がやってきた。
「覚えてるかのう。ソース屋のおじいさんじゃ。」
「「!!」」
「「先代様!!」」
「おい、先代様って勇者だったあの」
「勇者の印象を一代で変えたというあの本物の勇者か。」
「これは心強い!!」
さっきまでなんとも言えない空気が流れていたが、先代勇者が現れたことを知って冒険者たちの表情は明るくなった。が、現在勇者が救われた訳では無い。
それにしても、なんでこんなところにいるんだろう。
「もちろん覚えてるよ。だって、あんなに優しくて美味しいソースを作るおじいさんのこと忘れるわけないじゃん!!」
「お久しぶりです!! なんでこんなところに……。」
「リロのバカに勇者とはなにかを一から教え直そうと思い初めて立ち寄ったのがこの王都なんじゃよ。それなのにこんな事件に巻き込まれよって……。チルとポシカ、それにワシ。この三人だけでは心もとないからのう。まだワシが若かったら誘わなくても大丈夫だったんだけど……。」
「そうですか。」
「二人とも行ってくれるかのう?」
「……。やっぱり嫌だ!! 絶対に勇者は許さないんだもん!!」
「勇者を許さない気持ちは分かるが、ここだけは協力をしてくれないかのう。そうじゃのう。ワシにできることなら何でもする。だから、この通り!!」
そう発言すると、おじいさんは私たちに向けて頭を下げた。
私は慌てておじいさんのところに向かい、頭を下げるのを辞めさせる。
「頭を下げないでください!! 少しサリアと話し合うので、そこの椅子にでも座って待っててください!!」
「おおすまんのう。いい返事を待っておるぞ。」
「「俺達も?!」」
「お姉ちゃんはおじいさんに言ったんだよ。二人は別!!」
「「……。」」
一度頭を上げたリロとポシカは頭だけ上げたあとにすぐにまた同じ姿勢に戻った。
私はサリアと今の場所から少し離れて作戦会議に出る。
「サリアどうする? おじいさんが出てくると話が変わってくるから。私たちはおじいさんのおかげで料理のレパートリー増えたわけだし……。それに、もし何かあった時がね……。」
「そうなんだよ。おじいさんの助けにはなりたいんだけど、あの勇者は助けたくないからすごい迷ってて……。本当にどうしよっか。あっ。もしもダンジョンに潜るってなったら、学校でもう入学するまで寝泊まりできなくなっちゃうね……。それに、お母さんに言って帰ってくるのも遅くしてもらわないとだし……。」
「あと、校長先生に言って戻ってこないことも言わないとね。」
「行くとなったら色々大変だから、断ろっかな? でもな……。」
「うーん。」
私たちは本気でどうしよっか迷っている。こんな時何か決めるいいものがあればな。
私はそう思いながらポケットに手を突っ込むとそこには銅貨が入っていた。
多分買い物した時にでも入れたのかな。
「この銅貨が表だったら行って裏だったら断るって言うのはどうかな?」
「うーん。おじいさんの命が関わるから真剣に考えた方がいいと思うけど、それだと時間が過ぎるだけだもんね……。それしかないからそうしよっか。」
「いくよ!!」
私はコインを親指で弾き天井に届くぐらいまであげようとするが、力の制御を間違えて天井を突き抜けどこかに行ってしまった。
急いで魔力感知したが、誰も傷ついている方はいないみたい……。良かった。
「お姉ちゃん……。」
「しょうがないじゃん。こんな時もあるよ!!」
「もう!! 結局どうする? 行く? 行かない?」
「今回だけは特別に行こっか。さすがにおじいさんが元気に帰って来て欲しいから。サリアはこれでいい?」
「分かった。私も悩んでたから、これで大丈夫!! 急いで学校に戻るよ!!」
「その前に結果をみんなに伝えないとね」
「はーい!!」
私たちはみんなのところに戻ると、おじいさんは神にでも願っているのか?と思うほど両手を合わせて目をつぶっている。
対して、パーティーズの二人は未だに土下座のまま……。
絵面ヤバ。
「私達も行くことを決めましたが、その前に学校によっても帰らないことを伝えても大丈夫ですか?」
「おお!! 一緒に行ってくれるか!! 本当にありがとう。この恩は必ず返す!!」
「そんなのいいのにね」
「ね!!」
「それと、学校に行く話じゃが、ワシがテレパシーで校長に要件を伝えよう。その方が早く済むじゃろう。」
「それでも、いっか。」
そうして、私が学校に帰ってこないことを伝えてもらった。
校長先生はすごく心配していたそうだが、おじいさんが「ワシより強いから大丈夫じゃ」と言うと安心したらしい……。
学校入学してからが大変になりそうだ……。
「よし、では行くかのう。ほら二人ともいつまでもそんな姿勢をとっておる。さっさと準備していくぞ!!」
「「はい!!」」
リロとポシカは土下座を辞め、急いで立ち上がるが顔は下を向いたままだ。
多くの冒険者にこの姿を見せたんだから、威厳がね……。
まぁ、関係ない事だからいっか。
リロとポシカは回復薬を買いに行く。と行って急いでギルドを出たので私たちはそれまでギルドでゆっくり待つことに。
二階にある食堂のテーブル席に座ると同時におじいさんが話しかけてきた。
「本当にすまんのう。勇者のことが嫌いなのはこの前聞いたが、そんな相手を助けに行くのを頼むとは……。老いと言うものは嫌じゃな。助けたい相手を助けることもできなくなるとはのう。昔はあんなにはしゃいでいたのに……。ほんと理想と現実が徐々に離れていくわ。」
「そんなこと言わないで下さい。悪いのは勇者パーティーズだけで、おじいさんは悪くありません。」
「そうだよ。そうだよ!! 気にしないで!!」
「ほんと二人は優しいのう。もっと早く会っていれば勇者に任命したのにのう。それと、予定なのじゃが……。」
私たちは水を飲みながらダンジョン内での予定や気をつけることをおじいさんから聞いているとなんだか1階がうるさくなってきた。
もしかして、パーティーズ帰ってきたかな? でも、魔力感知には引っかからないんだよね……。
とりあえず、1階に戻るかな。
「ギルド内で騒いでるみたいなので、一度1階に行きませんか?」
「よし、わかったぞ。」
1階に降りている最中にどこかで聞いた事のある声が聞こえる。
唯一思い出せるのは、嫌いなやつだったという情報ぐらいだろうか。
私が階段を降りて、その正体を見ると同時にそいつは発言をした。
「どういうことだ!! お兄様がダンジョンに取り残されただと!!」
「「はぁ。」」
こっちの厄介者もやってきたよ……。
今パーティーズば出払ってるから、おじいさんに任すか。
本当に次から次へと……。
はぁ。
私のスローライフはどこに待ってるんだ!!
次回予告
連続して会いたくない人物にあってしまうアリア一行。ほんとこの王都はどうなってるの?! と頭を抱えたくなると同時に世界が小さいことを認識する。
これ以上会いたくない人物はいなかったはず。一つ一つ数えているうちに夕方になってしまうぞ!!
次回、また会いたくない奴と出会ってしまう。 お楽しみ