第110話 なんで、どうして私が……
オークキング、トロールの残骸、膝をつき真っ青なお母さん、可愛いぬいぐるみで表情が分からない紗夜ちゃんがその場に残された。
その場を少し離れてみている私とサリアは先程の衝撃で涙が止まらない上に、体が震えている。傍から見れば時間が止まったかのように感じる程、少しの間誰も動くことは無かった。
「はっ。アリア!! サリア!!」
お母さんは我が帰ったように大声で私たちの名前を呼び、駆け寄ってくれる。
私たちは未だに話す魔物を信じられず、感情が落ちていき母親が近づいていることに気づかずお母さんが少し動揺した。
そんなお母さんが、私たちのことを抱きしめて「大丈夫。大丈夫だから。」と囁きながら安心させてくれたみたいだが、私にはその記憶はあまり残っていない。
「お。おかあさん。」
「おかあさん……。」
「もう大丈夫だから、安心して。大丈夫よ。」
「「お母さん!!」」
お母さんは私たちに抱きつきながら声を荒らげて泣き始めた。
その瞬間お母さんの温もりを感じ少しだけ恐怖が和らいだことのみ覚えている。
忘れたくても忘れられない出来事。
考えたくなくても脳が勝手に考えあの光景を何度も思い出させる……。
そう考えれば考えるほどまた沼が足を引きずり込む。
お母さん。
お母さん。
お母さん!!
怖いよ。
怖いよ。
怖いよ!!
どうしてあんなにも楽しい時間が、こんなにも嫌な時間に変わってしまったの。
私悪いことでもしたかな?
なんで、どうして!!
叫びたい。
縋りたい。
消えてしまいたい。
自分が自分でいなくなるような感覚を味わい私は呼吸が早くなっていった。
その間もお母さんは「大丈夫。大丈夫だから。」と優しい声で私たちに囁いてくれる。
頭を撫でてくれたり、背中を撫でてくれた。が、私の意識は遠のいた。
次に意識が戻ると私はお母さんに膝枕されていて、その時には少しだけ冷静さを取り戻した。
その間に紗夜ちゃんは収納魔法に倒れているトロールとオークキングを収納してくれたみたいだ。
「お母さん、ありがとう。」
「大丈夫よ。慌てないでゆっくりしましょ。」
「私はもう大丈夫。それよりも、村のみんなを安心させてあげよう。」
「そうね。そうだったわね。」
私は起き上がると、サリアの様子が目に入った。
私と反対側でお母さんに膝枕されていて目は開けているものの、今までの活気のある目ではなくどこか絶望に浸っている目をしていた。
サリアに話しかけるか迷ったが、私は話しかけることができなかった。
「お母さんはサリアとここで待ってて。私と紗夜ちゃんで行ってくるから。」
「でも……。」
「大丈夫。もう泣かないから。いってきます!!」
「アリアは強いわね。」
「お姉ちゃんだから。」
そう言い放ったあと、紗夜ちゃんを連れて村の結界魔法が張られている家に向かった。
「アリア、だい……。よく頑張ったね。」
「ありがとう紗夜ちゃん。私はいつも紗夜ちゃんやお母さんに助けて貰ってばっかりだね。私は全然……。」
「そんなことは無い。あれだけの体験をして他人を思いやる気持ち、なかなかできない事だ。今はとにかく休むんだ。焦らなくていい。ゆっくりするんだ。もしも泣きたくなったらいつでも呼んでいい。肩は無くなったけど、ハンカチぐらいなら貸すし、愚痴なら何時間でも聞く。だから、今は生きるんだ。」
「ありがとう。しばらく旅は休むよ。」
「うん。」
私は紗夜ちゃんと話しながら急いで村に向かった。
村について改めて見る建物の残骸の光景。
先程も見たがそれ以上に感じるものが出てきた。
私はこれで良かったのかな?
結界が張っている家の前に着いた私と紗夜ちゃんはノックをした後に自分たちの事を伝えて中に入った。
中に入ると人々は不安で押し殺されそうな顔をしていて、泣いている子供、大人が多く見られる。
そんな中、村の長であるおばあちゃん長老が木製の杖をつきながら私達に近づく。
「今、終わりました。早く助けられなくてすみません。」
「ありがとうございます。ありがとうございます。気にしないでください。あなた方が来なければ私たち全員亡くなっておりした。私たちはあなた達が来てくれたことに感謝しております。本当にありがとうございます。」
長老は感謝しながら頭を下げると、部屋の中にいる住民も頭を下げ感謝の気持ちを述べた。
未だ子供は「お母さん。お父さん。」と泣き止まず、感謝の言葉と共に部屋に響き渡る。
私がこの子の立場ならどうだっただろうか。
後一歩早ければ自分の両親が助かったかもしれなかったのに……。
死者を蘇らす魔法なんてこの世には存在しない。
魔物がいるこの世界は弱肉強食。
そんなことはわかっていたはずなのに……。
そう。
はずなんだよね……。
私は少し家から出て村の建物をリペアの魔法で元に戻した。
紗夜ちゃんには、村の人々の問題だからそこまでしない方がいいと言われたが罪滅ぼしと言い、元の形に戻した。
オークなどの残骸は収納魔法、死者は結界が張られている裏に集めて再度家に戻った。
正直罪滅ぼしでは無い。
私が私であり続けるためにした行為である。
村の方々からは喜ばれたが、私の汚れた心はチクリと痛みが走った。
「本当にありがとうございます。お連れ様が見えないようですが、大丈夫ですか?」
「そこは大丈夫ですので安心してください。」
私は長老の耳元でこっそりと、
「死者はこの家の後ろに置きました。村の方々に任せてもよろしいですか?」
「本当にありがとうございます。」
長老は泣きながら私の手を両手で包み感謝し続けた。
その後、紗夜は結界を解きアリアが村の皆に別れを告げサリア達がいる場所に戻った。
もうこんな経験はしたくない。
次回から少し明るいお話になるかな?って感じです。
早く家族愛物語にいってほのぼのしたいです!!
次回このような内容を書くのはあの頃の紗夜ちゃん物語かな?
お楽しみに!!
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