第109話カンシャする。カワイイぬいぐるみサン
「やっとダガ、そこのフタリのお嬢チャンはイイのか」
「!!」
その言葉が聞こえるとお母さんは腰を少し低くし、戦闘体型に入る。
この姿勢は、相手がオークなどといった大きい存在程苦戦するフォーム。
大きいが故に視界が狭まってしまう。
エルフなどといった魔力感知があれば対処を簡単に取れるが、魔物にはそんなものは備わっていない。
そのフォームを見たキングオークが慌てて持っている武器を手放し手を挙げて降参のポーズをする。
「アワテないでクレ。多少ミミがイイからキニなったダケだ。それに、オレなんてスグに殺せるホド強いダロ……。この時ヲ待っていた。」
戦闘体型に入っていたお母さんだけど、オークキングが武器を落としたのを見て、少し不思議な顔をする。
私とサリアは今でも魔物が言葉を話すということに動揺して、体が震え上手く話すことも、動くことさえも出来ない。
そんな中、オークキングの仲間と思われるトロールが敵意損失したオークキングに向かって棍棒を振りかぶる。
「ヴァ!!」
「先ニ行ってロ。スグにおいツク。」
その後オークキングは詠唱すると、トロールがいたところから火柱が発生し、火柱が消える頃には何も残っていなかった。塵ひとつさえも。
魔物が詠唱、そして魔法を撃つというのはお母さんにとっても衝撃だったみたいで、どうしても足が引けてしまう。
「スマナイ。これでモンダイない。やっぱりオレみたいなモノは受け入れテハクレナイのだな。どちらニモ。」
「……。」
オークキングは何かを思い出した方に下を向きながら寂しそうな声で呟いた。
「何故オレ達をコウゲキするのかキイテいいか?」
「それはあなたが魔物だからでしょう。」
「それダケカ?」
「今回もだけど、街などに襲ってくるから私達がその前、途中などにあなたがたを倒しに行く。元はといえばあなた方に非があると思うのだけど。」
「そうオモウのか。オレは魔物イガイ殺してイナイ。いまアツマッテいる仲間もカッテに来ただけダ。魔物は、オナジ種族でも殺され、ベツの種族からもコロされ、あなたタチ常人カラも殺される。まるでイキルナと言われてイルみたいに……。疑問にオモッタから、ムカシ人族とコウリュウを試したが、殺されソウニなってオワッタ。どこに行ってもヒトリ。仲間がイテモ心はヒトリ。強くナリスギタ故にカンタンに死ねない。コレホド悔やむトキが来るとはオモワナかった。でも、キョウはやっと死ねそうダ。ヤット天に行ける。それだけがスクイだから。」
「「……。」」
お母さんは、オークキングの言葉を聞けば聞くほど、顔が真っ青になっていき、今では「私は……。私は……。」と小声で下を向きながら呟いている。
当たり前と教わってきたものが、誰かの人生を壊す原因となっていることに気づいたのだからこうなってしまうだろう。
それほど、当たり前というものは怖いものだ。
しかし、怖いというものはここでは終わらない。
当たり前になっているいわば癖。
これは無意識に出てしまうもの。
無意識に誰かを傷つけ、攻撃している。
そうして、自分に矢が向いた時のみ、なんでこんなこと言うのか? と考える。
理由は思い浮かべない。
いや、浮かばない。
それが当たり前なのだから。
「そこのフタリも聞いてイルナラ怖がらないでホシイ。魔物でもハナスやつはいる。騙すヤツモいる。冷静に対処シタモノだけが勝つンダヨ。もちろんレイガイもいる。オレは殺されタインダ。死にたいんだよ。コノ不条理なセカイから抜け出しタイ。生きたくナイ。こんなやつにアッタラすぐにコロシテやってくれ。ソレダケで、みんなスクワレル。
さぁ、コロシテくれ!!」
オークキングは、立ちながら両手を開きドンと構える。
お母さんが戸惑っている様子を見た紗夜ちゃんがその場で魔力を込めてキングオークに向かって氷の矢を連続で打ち始める。
「ありがとう。カンシャする。カワイイぬいぐるみサン」
「すまない……。」
ポツリと呟きながら紗夜ちゃんは魔法を止めることなく打ち続き、キングオークは笑顔で血だらけになってその場に倒れる。
そんなキングオークの目からは涙がポツリ流れ、地面に着くと同時に、紗夜ちゃんからの最後の矢が心臓に突き刺し亡くなる。
「紗夜さん……。」
「ああ。終わったよ。」
「はい……。」
「すまない。私一人で対処すべき問題だった。」
「そんなことないです。紗夜さんがいなければ私たちは……。」
お母さんは緊張が抜けたのかその場に座り込み下を向きながら涙をこぼす。
私とサリアは、オークキングが死んでも震えは止めることがなかった。
もっとこのお話を長編として書きたかったですね……。
またしても邪魔をするのは語彙力。
もっと本読んで勉強するぞ!!
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