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三日月君のサイン問題

三日月が珍しく起きていて何か一生懸命書いていることに美乃は気が付く。

「何しているの?」

「習字の練習」

「習字?どうして?」

「今度筆で色紙にサイン書かなきゃいけないから」


三日月君がサインを書くのか、さすがプロだな、と美乃は感慨深く思って三日月の練習している紙を見ると、筆ペンで練習しているものの、線の太さがバラバラで何が書いてあるのかさえ読めない状態だった。三日月のそれぞれの線がくっついて大きな台形のようになっている。

見た目のイケメンさと字の汚さが対極的だな、と美乃は思った。


「これは、なかなか芸術的だね…」

「美乃、今下手だと思ったでしょ。人にあげるものだから、ちょっとでも上手にかけたらなって思ったんだけど」


これはこれである意味三日月君らしくていいけど、本人がもう少し上手に書きたいと思っているのなら、ちゃんと教えてもらった方が良いのでは、と美乃は思った。自分も小さいころ習字を習っていたが、もうずいぶん昔で教える自信がない。


「あ、ひなたがいいかも」

「ん?」

と三日月が不思議そうに見る。

「私の友達が習字得意なんだけど習ってみる?」

「助かる」

三日月はホッとしている。


「三日月君に習字?いいけどなんで?」

「近々必要みたいで…」

理由を言うべきか迷うが、三日月に確認していないので美乃はぼやかす。

「美乃の頼みだしな、いいよ」

ひなたはこういう時、美乃の気持ちを察して深く聞いてこない。


次の日、美乃の部活が休みだったので放課後に家庭科室を借りて練習することにした。

「じゃあ、やるか」

とひなたは手際よく新聞紙や下敷きをひいて準備をする。

「まずは正しい持ち方からかな」

筆の持ち方からひなたは丁寧に教えてくれる。


「お、やってるやってる」

と唐沢がやって来る。美乃が声をかけていたのだ。

「なんか珍しく集中してやってるじゃん」

唐沢は感心したように言う。


ひなたは縦線、横線を丁寧に練習させている。

「線の太さ安定してきたね」

と美乃が言うと三日月は嬉しそうにする。


次に点・払い・折れを一つ一つ練習させる。


「これをたくさん練習してね。本番はいつ?」

ひなたが聞く。

「今週の土曜日」

「あと4日か…名前だけだよね?」

「ううん、五段 と名前と後なんか好きな文字」

「五段?なんの段なの?」

ひなたが美乃に聞く。

「三日月君、話してもいいかな?」

「うん、いいよ」

美乃はひなたに説明する。

「びっくりした。三日月君ってすごい人だったんだね」

と感心する。

「唐沢君も知ってたの?」

「うん、中学一緒だったし知ってた」

「好きな文字って何書くの?」

と美乃が聞くと、何も思い浮かばない、と三日月君は考え込む。

「奏、北海道出身だし、大志とかは?」

唐沢が提案する。

「クラーク博士!それすごくいい。それにする」

三日月君はかなり気に入ったようで、目をキラキラさせている。

「なんか唐沢君が知的なこと言ってるのが面白い」

とひなたが笑う。

「たまにはそういう面も見せとかないとな」

そういってみんなで笑い合う。

この四人ってなんか雰囲気良いなと美乃は思った。


「じゃあ、お手本書くから、時間あるときに練習してね」

そういってひなたは紙に“大志 五段 三日月 奏”と書く。

三日月君はおぉと言って受け取ると、

「すごい、教科書みたいにうまいんだね。ありがとう!柴田さん」

といった。

「お、奏が名前覚えた人がまた増えた」

唐沢はどこか嬉しそうに言う。美乃も嬉しい気持ちになる。

「どういたしまして」

ひなたは笑顔で答えた。

三日月が書いたサインを見たいという話になり、四人でグループラインを作る。


土曜日、三日月がグループラインに自分が書いたサイン色紙を送ってきた。


お世辞にも上手とは言えないまでも、三日月らしい文字で、何が書いてあるのかはしっかり分かるレベルになっていた。


“お、めっちゃ上達してんじゃん”と唐沢

“三日月君っぽい文字でいいね”と美乃

“まぁ、合格かな”とひなたが返事を送ると、どや顔した変なキャラクターのスタンプが三日月君から送られてきた。


三日月の独特なスタンプセンスに三人は思わず笑ってしまう。


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