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三日月君のライバル

三日月がいつものようにネットで囲碁を打っていると電話がかかってくる。

「もしもし?」

「おぉ、三日月。久しぶりやな」

聞き覚えのある関西弁のこの声。

蓬沢(よもぎさわ)?何?」

電話の相手は関西棋院所属の囲碁棋士・蓬沢秋斗よもぎさわ あきとだった。

「相変わらずやな。なんかないんか、元気か?とか調子はどうや?とか」

蓬沢はよくしゃべる。

「元気?」

三日月はしぶしぶ聞く。

「えぇやないか、おう、元気やで。」

「で?なに?」

「まぁまぁ、焦んなや。来週仕事で東京行くんやけど、泊めてくれへん?そんでついでに打とうや」

「来週のいつ?」

「金曜に行って日曜日に帰る予定。仕事は金曜日だけなんやけど、せっかくやし日曜までおろうと思ってな」

「いいよ。土曜日師匠の家で研究会あるけど来る?」

「行く行く。じゃ、詳細また連絡するわ。ほなな」

蓬沢は同じ歳で、大事な場面でよく当たる相手で、勝率は五分五分。負けたくない相手でもあり、いい刺激をくれる相手でもある。三日月も関西に行くときは大抵声をかける。お互いの家の場所も覚えている間柄だ。


大阪で生まれ育ち、関西棋院所属の蓬沢と仲良くなったきっかけは新人王戦だった。決勝で当たることになり、接戦の末にわずか反目の差で三日月が勝った。その後ネットでたびたび打ったり、定期的に連絡を取ったりもするようになった。


蓬沢が来る日、駅から家へと向かっていると後ろから声をかけられる。

「おう、三日月、なんや髪の毛さっぱりして別人かと思ったわ」

「よく言われる」

「夕飯どっかで買っていこうや。この辺なんかある?」

「コンビニある」


二人でコンビニでお弁当やお菓子、飲み物を買って家に向かう。相変わらずなんもない部屋やな、と笑いながら蓬沢は慣れた様子で冷蔵庫を開ける。


「打とうぜ」

蓬沢が碁盤を中央に持ってくる。打ったり検討しているとあっという間に時間が過ぎて気づけば深夜0時を回っていた。


「もうこんな時間か。時間がたりひんな」

「続きは明日にしてもう寝るか」

「そうやな」


次の日は師匠の家に行って研究会に参加する。

「蓬沢君、よく来てくれたね。歓迎するよ」

「ありがとうございます、紫門先生」

蓬沢は関西人だからかこういう場にもすぐに溶け込んで、さもずっと参加しているような雰囲気が出ている。

「蓬沢君は奏の家に泊まってるんだって?仲いいね」

藤崎が蓬沢に話しかける。

「まぁ、ライバルってやつですわ。新人王決勝で負けて以来公式戦で当たってないんで、次当たったらあの時の雪辱を晴らしたろう思てます」

「今の奏はてごわいぞ。調子いいからな」

「なんや、雰囲気も変わりましたよね。前はあんなにダサかったのに」

「それがさ、あいつ彼女できたんだよ。」

藤崎がニヤニヤして言う

「三日月に…彼女?いくら何でもそんな冗談…」

「それが冗談じゃないんだよ」

蓬沢は呆然としている。

「三日月にだけは先越されないと思てましたわ、俺」

その場の全員が笑う。

そこにトイレから三日月が帰ってくる。

「三日月、お前にだけは絶対負けへんからな」

三日月は不思議そうに首をかしげていた。


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