唐沢君とはじめての碁会所
「ねぇ、碁会所行って打ってみたいんだけど」
教室でお昼ご飯を食べながらひなたが言う。
「え…でも私たちまだまだ弱いし、怖くない?」
「俺、一緒に行こうか?」
と唐沢が言う。
「碁会所行くなら、最初のうちは涼に一緒に行ってもらった方がいいよ。合う合わないがあるから」
とめずらしく三日月が自分から話す。
「合う合わない?」
美乃が聞くと唐沢が説明してくれる。
「碁会所って様々でさ。初心者大歓迎ってとこもあれば、ある程度打てる人じゃないとってとこまで様々なんだよ。」
「なるほど…」
「駅の近くに俺の良くいく碁会所あるけど行ってみる?」
「そこは初心者も大丈夫なの?」
「うん、席亭が若い人でさ、囲碁の普及活動に力入れてる人だから大丈夫」
唐沢君がいるなら安心だな、と思い行くことにした。
早い時間がすいてるから、ということで12時に待ち合わせて向かう。
「こんにちはー」
と唐沢君は慣れた様子で入っていく。
「おぉ、涼、いらっしゃい。」
「今日二人連れてきた。二十級と十五級くらいだと思うんだけど。」
「よく来てくれたね。席亭の福井です」
「あ、音羽美乃です」
「柴田ひなたです」
中に入ると、つくえがずらっと並んでいてたくさんの碁盤たちが置いてある。
「涼二人と打つ?今ほかの人いないから俺も打てるけど」
「いいんすか?」
「もちろん。初めて来てくれたから指導料はサービスするよ」
福井さんは優しく笑う。
「じゃあ、音羽福井さんに打ってもらいなよ。十九路もだいぶ打てるみたいだし。柴田は俺と十三路打とうぜ」
「音羽さんは十九路打てるんだね」
「えっと、一応終局までは打てます」
「十分十分。じゃあ、9子おいて打ってみようか」
「はい、よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
と言って福井さんは優しく笑う。
福井さんは物腰が柔らかくてすごく優しい人で、途中でいろいろ教えてくれながら打った。
「音羽さんはすごくきれいに打つね。」
「ありがとうございます」
美乃は少し照れる。
「対局以外でどんな勉強しているの?」
美乃は三日月が買ってくれた本を福井さんに見せる。
「へぇ、すごいな、レベルにしっかりあった本を選んでる。これ自分で選んだの?」
「えっと、知り合いが選んでくれて」
「すごいな。」
と福井さんは感心している。
「福井さんはいつから席亭をされてるんですか?」
「3年前からだよ。その前は日本棋院で院生してたんだ」
「院生?」
「そう、囲碁棋士の養成機関に通っていたんだ。よくプロの卵って言われたりする」
「そんな制度があるんですね。プロになるには院生になる必要があるんですか?」
「まぁならなくてもプロになる方法はあるけど、院生からプロになることが多いかな」
3年前ということは三日月君とも面識があるのだろうか、と美乃は思った。
「ねぇ、美乃、唐沢いじめてくるからもう嫌だ」
ひなたがむすっとした顔でいう。
「じゃあ、交代して柴田さん僕と打とうか。13路」
「はい!」
とひなたは嬉しそうに移動してくる。
「じゃ、音羽打とうぜ」
いじめてくる、というひなたの言葉に不安を覚えつつも唐沢と打ってみたかったので唐沢の方へ向かう。
「じゃあ、とりあえず9子置くか」
唐沢君はなかなか攻撃的なスタイルだな、と美乃は思った。
「だいぶ打てるじゃん」
「ありがとう」
「性格出るよな、なんか音羽はちゃんとしてる。柴田は大胆。」
「唐沢君は好戦的だなって思った。」
「よくわかったな」
と唐沢君は笑った。
対局後に店内を見ていると、見慣れた文字がある。三日月君のサインだった。
「あ、見つけた」
と唐沢君が笑う。
「そっか、涼と同じ高校ってことは奏とも同じ高校ってことか」
「そう、4人同じクラス」
「同じクラスか。奏はね、たまに指導碁打ちに来てくれるんだよ」
「そうなんですね」
いろんなことしているんだな、と美乃は感心しながらサインを眺めていた。
「奏とは院生時代によく打ったな。ボコボコにされて夜遅くまで検討に付き合わせたこともあったな」
福井さんは懐かしそうに話す。
穏やかな表情で三日月のことを話す福井さんを見て、美乃は嬉しくなった。
しばらくたって、そろそろ子どもの時間は終わりだから帰ろう、と唐沢君が言った。
「子供の時間?」
「ははは、あと1時間経ったらお酒の提供が始まるからね」
帰り際に福井さんは美乃とひなたにカードをくれた。
“席亭限定 9路・13路指導碁無料カード”と書かれている。
「9路と13路限定で、ほかの指導碁が入ってないときに限るけど、良かったら使って」
美乃とひなたはありがとうございます、といって受け取った。
初めての碁会所は楽しくて、また来たいな、と美乃とひなたは思った。




