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美乃のコンプレックス問題

最近、休憩時間のたびに三日月のところに花澤さんがよくきて話しかけている。三日月は相変わらずぼーっとしていて、あまり受け答えをしていないが、それでもあきらめずに話しかける花澤さんを見て、もしこのままこれが続いたら、いつか三日月は心を開いてしまうのではないか、と美乃は不安を感じていた。


花澤さんは小柄で、可愛らしくて、華奢で、守ってあげたくなるような雰囲気を持っている。

男子から人気があるというのは納得だ。


自分とは真逆だな、と美乃は思う。美乃は背は高いし、一人で生きていけます、といった雰囲気で、可愛げという言葉からかけ離れていると思っている。


そういえば、公開対局の時に三日月にプレゼントを渡しに行った子、花澤さんみたいに小柄で可愛らしい人だったな、と思い出す。

対局してるとき、あんなにかっこいいから、やっぱりモテるんだろうか。


気にしてもしょうがないけど、と思い勉強で気を紛らわす。


次の日の昼休み、花澤さんは雑誌を手にやってきた。

「これ、三日月君だよね?」

そういって囲碁の雑誌を三日月に見せる。


「うん…まぁ」

美乃はなんだか胸がザワザワする。


「すご~い!プロなんてかっこいいね。」

「どうも…」

美乃は三日月がどんな顔をしているのか怖くて見れない。


「ね、私にも囲碁教えて!」

囲碁のことになると心を開きがちな三日月のことだからOKして、そしてそれを通して花澤さんの魅力に気づいてしまうんじゃないだろうかと心配になる。


「え、めんどくさい。涼できるから涼に聞けば?」

三日月は平然と言う。美乃は少し安心する。

「唐沢君はちょっとこわいから、三日月君がいい」

三日月は何も言わない。

「まあ、いいや。ね、今度日本棋院でイベント出るよね?私も行くね!」

そういって花澤さんは三日月に手を振って席に戻っていく。


イベントに来たら、お客さんってことだし、無下にはできないだろうな、と美乃は複雑な気持ちになる。今後こんなことたくさんあるのだろうか。


「美乃、私たちも行こうよ、イベント!」

放課後、三日月が帰った後ひなたが声をかけてくる。どうやら聞いていたようだ。

「私は、行かない」

「なんで?」

「見たら嫌な気持ちになっちゃいそうだから。それにテストも近いから勉強しなきゃ」

「気にならないの?」

「気にはなるけど、でも、どうするか決めるのは三日月君だから。私にはどうにもできないし。三日月君は仕事だからさ、邪魔はしたくない」

きれいごと言っちゃったな、と美乃は思った。

三日月が自分じゃなくてほかの人を選んだら、すごく悲しいけれど納得はできる。

自分が男だったら、花澤さんの方を女性として魅力的に感じる。


美乃の返答にひなたはモヤモヤしている。

美乃はいつも聞き分けが良すぎる、とひなたは思っている。

もっとわがまま言ったり不安に思うことを口に出せばいいのに。

三日月はそう言うことに自分から気づいてフォローできるタイプではない。

だからこそ、伝えなければいけないのに。


ひなたはモヤモヤした気持ちを唐沢に話す。

「音羽って恋愛となると、なんか女の子らしい子を前にすると急に自信失うよな。公開対局の時もだけど」

「そうなんだよね。背が高くて、しっかりしてるとこが美乃のコンプレックスなんだよね。私にしたらうらやましいところなのに」

「隣の芝生は何とかってやつだよ。まぁでも大丈夫だよ」

「なんで分かるの?」

「奏は、音羽への執着すごいから。意外とそれでバランス取れてるからな」

と唐沢は笑う。

ひなたはどういう意味か分からなかった。


「三日月君」

三日月は美乃をみて微笑む。

「外で待つの寒くない?」

「大丈夫」

「もう帰ったかと思ってた」

「帰ろうと思ったけど、気になることあって研究室行って勉強しながら待ってた」

「気になること?」

「今日の昼休み、なんかいつもと違ったから、美乃が」

美乃はドキッとする。

「なんか、変な顔してた」

「その言い方はちょっとひどい」

「変な顔っていうか、うまく言えないけどいつもと違う顔してた」

「…。」

「なんでもないならいいけど」

少しだけ、話してみようかな、と美乃は思う。


「…。ほら、最近花澤さんが三日月君のところに話にくるから、三日月君のこと気になってるのかなって。花澤さんすごく可愛らしいから、三日月君も花澤さんのことすきになったらどうしよう、とかそんなこと思ったらちょっと不安になって。ごめんね、そんなこと言われても困るよね。三日月君は仕事で関わらなきゃかもだし」


「なんだ、そんなことか。っていうか花澤さんっていうのか。あの人。」

「そんなことって」

美乃は少しムッとする。


三日月は少し考えてから、

「どうしたら安心できる?」

と聞く。

「え?」

「仕事だとどうしても関わらざるを得ないから、美乃が安心できる方法を教えて。今後のためにも」

「…。」

「我慢されると困る。関係が壊れる可能性のある危険因子は早めに潰しときたい。だから教えて」


三日月君は、私との関係を壊したくないと思ってくれているのか。


「じゃあ、イベント終わったら連絡してほしい」

「それだけでいいの?電話でいい?」

「うん、めんどくさくない?」

「全然」

「ありがとう。」

美乃が笑顔で言うと三日月も笑いかける。


美乃と別れた後、三日月は携帯を取り出す。

忘れそうだからリマインダーに入れとくか、とイベントの日時に携帯画面に美乃に電話することを表示する設定をする。

そういえばこの機能、仕事以外で初めて使ったな、と三日月は思う。



イベント終了後、三日月から約束通り電話がかかってくる。

忘れそうだと思っていた美乃は覚えていてくれたことをうれしく思った。


「もしもし?」

「美乃?さっきのOGSの一手、自滅に向かってるからやり直しで」


言いたいことだけ言ってさっさと切ってしまうのは相変わらずだ。

絶対に電話する理由忘れているな、と美乃は思わず笑ってしまう。


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