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三日月君の告白

「結局、心配いらなかったね」

ひなたが同情するような眼で美乃を見る。

「音羽、お前ほんとすごいよ」

唐沢が言う

三日月は寝息を立てて眠っている。


次期学級委員選挙で、誰も立候補がなく、投票による選考の結果、美乃が再選したのだ。

学級委員などみんなやりたくないから、無難な自分に投票が集まったことを美乃は分かっている。

学級委員の仕事は三日月のことを除いてもなかなか大変だったので、やっと解放されると思っていたのに。

「しょうがないよ、だって美乃成績も学年トップクラスだし。ちゃんとしてるし」

嘆いていても仕方がないのでとりあえずできることをやるか、と覚悟を決める。


あれから結局付き合うだのどうのという話が出ることはなく、美乃は安心していた。


放課後の部活終わりにはミーティングがあり、その後後輩の相談にのったり、練習ノートを書いたりで帰りが遅くなった。


校門を出ると、前方に三日月が見える。

「三日月君?」

「あ、美乃。今日は遅いな」

「三日月君こそ、こんな時間までどうしたの?」

「学校の近くに研究室があって、ちょっと寄ってた。」

「研究室?」

「うん、棋士何人かでお金出し合ってマンションの1室を借りて使ってるんだ」

「じゃあ、勉強してたんだ。」

「うん、明日は負けたくない対局があるから」

「負けたくない?」

「うん、明日勝てばリーグ入りだから。絶対勝ちたいんだ」

このところ特に授業中眠そうだったのはそういうことだったのか、と美乃は思う。

「そっか。全力出せますようにって祈ってる」

「ありがとう。全力出せる気がしてきた。」

美乃と三日月は笑顔で別れる。


勝てるといいな、と美乃は心から思った。


次の日の夜、結果を見て良いものか迷ったものの、

気になって眠れそうにないので、ドキドキしながら棋院のHPで結果を見る。

緊張しながらスクロールしていく。


三日月は負けていた。


美乃はどうしようもなくつらい気持ちになる。

絶対勝ちたいと言っていた三日月は今どんな気持ちなんだろうか。

自分がつらい気持ちになるなんてお門違いだが、それでも、美乃の心は痛んだ。


朝、三日月からLINEが来ないので美乃はモーニングコールをかける。

できるだけ普通にした方が良い気がしたからだ。

3回目で三日月が出た。

「あ、美乃、おはよう」

声に元気がない気がする。

「昨日さ、負けた。ちょっと悔しい負け方した。」

「そっか」

美乃はこういう時に気の利いた言葉が出てこない自分を情けなく思う。

「でも、美乃からいつも通り電話かかってきたから、なんか安心した。遅刻しないように行く」

と言って電話が切れる。


「あいつが言った言葉は本物だと思う」


という唐沢の言葉を思い出す。

そうだとしたら、自分がどんな時もいつも通りにしていたら、三日月の心をほんの少しは軽くできるのだろうか。

気の利いた言葉なんて言えなくても、ただ日常を続けることが、私に唯一できることなんだろうか、と美乃は思う。


三日月君に会いたい。


その一心で学校に行く。三日月君は目の下にクマを作って登校してくる。

「おはよう、美乃」

相変わらずぼーっとしている三日月に、美乃はいつも通り、おはよう、と返す。

三日月は安心したように笑う。


部活の帰り、校門に三日月が立っている。


「三日月君、どうしたの?」


「美乃と一緒に帰ろうと思って」


「そっか」


「あのさ」


「ん?」


「俺さ、付き合うって、面倒で、無意味だと思ってたんだけど」


「うん」


「今日意味を見いだせた気がする」


「そうなんだ」


「ねぇ、美乃。」


「ん?」


「俺と付き合って」


三日月は穏やかな笑顔で美乃をまっすぐ見て言う。


「それね、今私も言おうと思った」


二人で声を出して笑い合う。

ドキドキして、くすぐったい気持ちが心地いいな、と美乃は思った。

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