三日月君の恋愛観問題
夏休みが終わり、新学期がやってきた。
「そういえばさ、もうすぐ美乃、学級委員終わりだよね」
お弁当を食べながらひなたが聞く。
「うん、あと1か月。長かった」
「そしたら三日月君の面倒は新しい学級委員が見ることになるの?」
そういえばどうするんだろうか、と思う。
「それは、困る」
三日月君が絶望した顔で言っている。
「面倒見る口実作っちゃえばいいんじゃねぇの?」
と唐沢が言う。
「口実か、なるほど。美乃、結婚する?」
三日月が平然と言うので美乃は目が点になる。
唐沢とひなたは爆笑している。
「いやいや、おかしいでしょ。付き合ってもないし、私たちまだ結婚できない歳だし。それに、面倒見る口実に結婚って、ちょっとひどくない?」
「そっか、年齢制限か…」
と三日月は考え込んでいる。
年齢の点しか三日月には残らなかったようだ。
「奏、結婚はいきなりすぎるからまずは付き合ったら?」
「付き合うって何するの?」
「それは、ほらデートしたり、毎日連絡とったり、いちゃついたりだろ」
「その行為に何の意味があるの?なんかその段階を経るのがめんどくさい」
三日月はほんとに変わっている、と3人は思う。
「あ、俺今日先生に呼ばれているんだった」
そういって三日月はあっさり去っていく。
「音羽はどう思ってんの?その、奏のこと」
「えっと…まだ分からない」
「そうなの?両思いだと思ってたよ。」
ひなたが驚いたように言う。
「いやいや、三日月君の気持ちも分からないし」
ひなたと唐沢は顔を見合わせる。
「音羽、奏はさ、ぶっ飛んでるけど、思ってることしか言わない。駆け引きとかできないから。だから、あいつが言った言葉は全部本物だと思う」
唐沢は真面目に言う。
確かに、三日月君は、お世辞とか、誰かを利用しようとか、そういうことはできない。
OGSで次の1手が返ってくると嬉しかったり、力になりたいと思ったり、そういうのは好きってことなんだろうか。
三日月は優先順位のダントツ1位が囲碁だ。
多分、美乃が思い描くような付き合いはできないだろう。
何より、囲碁の邪魔にならないように、負担をかけないように付き合うことなんて自分にできるだろうか。
そしてそれに耐えられるだろうか。
正直、未知の世界すぎて分からない。
まじめすぎるって言われるかもしれないけれど、簡単に付き合うとかは、自分には言えない、そう美乃は思った。
OGSを開くと、三日月が次の1手を返している。美乃は前回、どうしていいか分からず、苦し紛れに打ったことを思い出す。まだよく囲碁のことは分からないけれど、三日月の1手は美乃が次に何を考えればいいのかを教えてくれる優しい1手のように感じた。
美乃が1手返すと、1時間後に三日月がコメント付きで返してくる。
“いい手だね”
碁盤の上で意思疎通ができた気がして、美乃は嬉しい気持ちになった。




