三日月君とOGS
夏休みに入って2週間がたった。
美乃は三日月とは会っていないし、連絡も取っていない。
午前中の部活から帰ろうとすると見慣れた人影が見える。
「三日月君?どうしたの?」
「前期に休んだ生物の実験の補講受けてた。美乃もそろそろ部活終わるかなって思って待ってた」
「私が今日部活ってよく知ってたね」
「うん、夏休み前スケジュール表見せてくれたから」
あの一瞬で覚えるなんて恐るべき記憶力だなと美乃は思う。
「せっかくだし、どこかでお昼食べて帰る?」
三日月は無表情のまま、うん、とだけ言った。
どこ行こうか、と美乃が検索のためにスマホの画面を開く。
「あ、囲碁クエスト」
三日月の目が大きくなる。
「あぁ、これ。実は前に囲碁を教えてもらえるイベントに行ったんだ。そこで教えてもらったの」
「囲碁始めたの?」
三日月が驚いた顔で言う。
「うん、でもまだ9路盤でしか打ったことないし、やっと終局が分かるようになった感じで…」
「そっか・・・」
三日月は心なしかうれしそうな顔をしている。
どこでもいいと三日月が言うので一番近くのファミレスに入る。
「こちらへどうぞ」
とソファの席に案内されると、三日月君は向かい合わせではなく隣に座る。
距離が近くて美乃はドキッとする。
「美乃が打った碁見せて」
というのでひなたと打ったものをアプリで見せる。
「ほんとだ、打ってる」
三日月はやっぱりうれしそうだ。
「OGSやらない?」
「OGS?」
「うん、これ。通信で打てる」
と言ってスマホの画面を見せる。
「同時にログインしてなくても打てるから、時間合わなくても打てるし、制限時間も長く設定できるから、1日1手でもいい。好きな時に打てる。」
「そんなのあるんだ。それなら隙間時間にできて気楽かも」
「やってみる?」
と三日月に聞かれ、美乃は快諾する。
三日月は美乃に登録方法を教えて、フレンド登録してくれる。
「とりあえず9路で」
打ちながら操作方法を教えてくれるが、美乃には懸念があった。
「三日月君が打ってくれるのは嬉しいんだけど、私と打ってもおもしろくないんじゃない?」
「おもしろくはないけど、美乃と囲碁打ちたい」
はっきり言うな、と思ったが、自分と囲碁したいと思ってくれることは嬉しかった
「夏休み、忙しいの?」
お昼ご飯を食べながら美乃は聞く。
「そうでもないけど、こういうみんなが休みの時はイベントとかは多い。あとは勉強してる」
それよりさ、と三日月は聞く。
「囲碁教えてもらえるイベントってどんなやつ?」
「駅の近くにあるなんかおしゃれな囲碁サロンで、プロの先生が教えてくれたよ。」
「あ、あそこの囲碁サロンか。」
「知ってるの?」
「行ったことある。プロって誰?」
「春木先生っていう女性の先生」
「良い人に当たったね。教えるの上手なイメージある」
「うん、すごくわかりやすかったよ。」
そうか、と三日月君は嬉しそうに笑った。
その後、夏休みの間、1日3~4手くらい、OGSで三日月君は打ってくる。時々、それ危険、とか短いコメントを入れてくれる。
なんか文通してるみたいだな、と思いながら、美乃は夏休みの間、三日月の打つ手を楽しみにしていた。




