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突出した才能

「あれから、二年くらいになるかな。二人共、いい子に育っているようだね」

「そう、だな」


 アイルにそう言われて、エクスは何ともいえないような表情を浮かべていた。


「どうしたんだい、浮かないような顔をして」

「このままでいいのか、って思ってな」

「君は十分に立派な父親をしていると思うけど」


 エクスが悩んでいるのを見て、アイルは笑顔で言う。


「俺が父親として立派にやっているかどうかはわからんが。ただ、二人共才能があるからな。正直、俺以外に教わった方が良いと思っている」


 エクスは自分が父親としてやれているかということより、二人が才能を持て余すことを気にかけていた。


「あ、そっち。確かに二人共凄いからね。シャリアちゃんだけでも爺ちゃんに任せたらどうかな」

「いや、それをすると拗ねるからな」


 アイルにそう提案されて、エクスは困ったように首を振った。


「あ、セロルちゃんが『お姉ちゃんだけずるい』ってなるわけか」


 アイルは納得したように頷く。


「いや、拗ねるのはシャリアの方だな」

「え? どういうことだい」

「多分、『セロルだけパパに教えてもらうのはずるい』って言い出すな」


 エクスはそこで小さく息を吐いた。


「シャリアちゃん、しっかりしていると思ってたけど。そんな甘えん坊な一面もあるのか」


 それを聞いて、アイルが驚いたように言った。


「セロルを守らなきゃいけない、ってずっと気を張っていたみたいだからな。それでしっかり者になったんだろう。周りの大人が信用できなかったから、信用できる俺には甘えたいんだろうが……」


 シャリアもセロルも、エクスに対して過剰なまでに甘えてきていた。二人の境遇からして邪険に扱うこともできず、されるがままにしていた。

 とはいえエクスもいずれ反抗期というやつが来れば、こんなことはなくなるだろうと楽観視していた。


「それだけ信用してくれるのなら、いいんじゃないかな」

「俺なんかを信用する時点で、将来が不安でな。俺がまともな大人に見えるか?」

「まともじゃない大人は、自分でそんなことは言わないよ」


 エクスにそう言われて、アイルは思わず笑い出していた。


「それに、まともじゃない大人は獲物をお裾分けなんかしないんじゃないかな。君が来てから、僕達の食生活もかなり良くなったからね」

「何度も言っているが、腐らせるくらいならみんなで食った方が良い」

「そう言えばこの前の鹿肉、爺ちゃんも喜んでたよ」

「あの歳で、普通に肉食うのかよあのジジイは」


 ロウメルが鹿肉を問題なく食べていると聞いて、エクスは呆れたように口にする。


「まだまだ元気だからね」


 そこで、アイルは大きな声で笑い出した。


「邪魔するよ、お二人さん」

「あっ、爺ちゃん」


 そこで、当のロウメルが入ってきた。


「ジジイか、何しに来たんだよ」

「この前の鹿肉の礼を言いに来たんじゃよ」


 エクスが邪険に扱うように言うが、ロウメルは気にも留めなかった。


「まだまだ元気なようで何よりだな。精々長生きしてくれ」

「お前さんに言われるまでもないわい」


 エクスがぶっきらぼうに言うと、ロウメルはニヤリと笑みを浮かべる。


「なあ、ジジイ。俺の娘のことなんだが」


 二人のことを相談したかったこともあって、エクスはロウメルに話を振った。


「何じゃ、あの二人のことで困っとるのか。二人共、お前さんには懐いとるようじゃし、そこまで問題があるように思えんがのう」


 それが意外だったのか、ロウメルは伸ばした顎髭を手で撫でながら言う。


「いや、ジジイも気付いているだろ。あの二人の才能に」

「……お前さんの手には負えん、ということか」


 相談の内容を聞いて、ロウメルの表情が真剣なものになっていた。


「俺は基本的なことしか教えてやれん。剣はまだしも、魔法は特にそうだ。だから、二人の才能がここで埋もれるのは惜しいと思っている」


 エクスは二人に教えていて、その才能に目を見張っていた。きちんとした人間に教われば、その道で一流になることも十分に可能だろう。

 だが、この村には剣はともかく魔法を教えられるような人間がいない。


「なら、王都の学校にでも行かせるかの」

「そうしたいところだが……二人共、俺に依存しているような節がある。だから、王都に行けといっても素直に聞いてくれるかどうか」


 エクスはそこを懸念していた。今の二人にエクスの元を離れて王都に行け、と言っても素直に聞き入れるとは思えなかった。


「じゃが、それを説得するのも親の仕事じゃよ」

「そうか、そうだな」


 ロウメルに言われて、エクスは頷いた。もしかしたら、今の生活を変えたくないと思っているのは二人ではなく自分自身だったかもしれない。

 近いうちに、二人にはしっかり話をしよう。


「お姉ちゃんの馬鹿ー!!」


 エクスがそう決意した時、外からセロルの声が聞こえた。


「今の、セロルちゃん? 珍しいね、あの子があんな大声を出すなんて」

「セロルの分からず屋ー!!」


 セロルの大声にアイルが驚いていると、今度はシャリアの声が聞こえてくる。


「姉妹喧嘩、かな。いいの、止めなくて」

「二人共、自分の感情をあまり表に出さないからな。たまには、いいんじゃないか」


 アイルが止めるように言うが、エクスは放置することにした。喧嘩するほど仲が良い、というわけでもないが、二人が互いに感情をぶつけ合うようなことは今までになかった。


「はは、君も立派にお父さんをやってるみたいだね」


 エクスの言葉を聞いて、アイルはそれ以上止めるようには言わなかった。


「た、大変です副団長。あなたの娘さんが」


 自警団員が慌てて飛び込んできた。


「喧嘩してるんだろう。姉妹喧嘩なんて珍しいもんじゃないし、放っておいていいぞ」


 団員まで喧嘩を止めようとしているのを見て、エクスは呆れたように答える。


「い、いえ。あれはただの姉妹喧嘩じゃないですから。と、とにかく止めて下さいよ」


 団員がエクスの腕を引っ張るようにして外に連れ出した。


「爺ちゃん」

「うむ。様子を見に行くかの」


 只事ではないと察して、アイクはロウメルに目をやった。

 それを受けて、ロウメルは大きく頷く。


「お姉ちゃんなんか、嫌い!!」


 セロルは叫びながら魔法を放った。

 それは人一人くらいなら簡単に飲み込む程の大きさで、並の人間ならとても対処できないようなものだった。


「何でわからないのよ!!」


 だが、シャリアはそれを模造刀で難なく切り払った。


「あの二人、ずっとあんな調子で喧嘩してるんですよ」


 団員がその様子を指差して言う。


「遠征でキメラと戦ったことがあったが、それよりも身の危険を感じる気がするな」


 エクスは遠い目をして、その様子を眺めていた。

 騎士団にいた頃に色々な魔物を討伐したが、それに匹敵するほどの身の危険を感じていた。


「ちょ、ちょっと現実逃避してないで止めて下さいよ。このままだと、村に被害が出ちゃいますから」


 現実逃避しているようなエクスの体を、団員が大きく揺さぶった。


「エクス、あれを見て現実逃避したくなるのもわかるけど」


 追いかけてきたアイクが、呆れたように息を吐いた。


「そ、そうだったな。止めないか、二人共」


 そこでようやく、エクスは二人を止めるために声を上げた。

 その声で、激しくやり合っていたのが嘘のように二人の動きが止まった。


「パパ……」

「お父さん……」


 二人はばつが悪そうにエクスを見る。


「俺は姉妹で喧嘩をするために、剣や魔法を教えたつもりはないぞ」

「ごめんなさい」


 エクスに強く言われて、二人はしょんぼりと頭を下げた。


「わかったなら、もう帰れ。喧嘩をしてもいいが、剣や魔法を使うなよ」


 二人が反省しているのを見て、エクスはできるだけ優しく言った。


「どうして喧嘩していたのか、聞かないの」

「喧嘩の理由なんて聞いてどうするんだ」


 シャリアにそう言われて、エクスは笑いながら答えた。


「……セロル、行こう」

「うん」


 先程まで激しくやり合っていたのが嘘のように、二人は大人しく帰っていった。


「大したもんじゃのう、あの二人は」


 あれだけの騒ぎだというのに、ロウメルはどこか感心したように言う。


「ジジイ、頼みがある」


 もはや問題を先送りにはできないと感じ、エクスはロウメルにそう言った。


「わかっとるわい。もはやお前さんどころか、儂の手にも負えんからの」

「話が早くて助かる」

「あの二人は、王都に行かせる。それはもう確定だ。どれだけ嫌がっても、きちんとした力の使い方を学ばせないといけない。だが」


 エクスはそこで言葉を切った。


「俺が親ってことで手続きすると、何かと面倒になりそうだからな。悪いがそこだけはジジイが代わってくれないか」

「何じゃお前さん、王都で悪さでもしてきたかの」


 それを聞いて、ロウメルが怪訝そうな顔をする。


「俺は元騎士団員だ。色々と詮索されると面倒なことになりかねん」

「そういうことなら、引き受けてやるわい。じゃが、あの子らを説得するのはお前さんの仕事じゃぞ」

「ああ、わかっている」


 ロウメルに言われて、エクスは強く頷いた。

 この話をしたら、二人は相当に嫌がるに違いない。だが、どんなに嫌がってもしっかりと納得させなければいけない。

 それが親としての自分の役目だ。


「俺が親みたいなことをするなんてな」


 そこまで考えて、エクスは思わずそう呟いていた。

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