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数年振りの共闘

「よもや、騎士団の大半を引き連れて討伐するのがゴブリンとは思わなかったが」


 エクスは拍子抜けした、というように隣にいるアレクシアに言った。

 アレクシアに先導されて着いた先は、これといって遮蔽物もない草原だった。

 少し先にゴブリンが群れをなしているのが見える。


「別に全員で討伐するわけでもないさ。あくまで、連携の重要性を学んでもらうためだ」

「ということは、俺達がゴブリンをやるのか。それなら、俺の出る幕はなさそうか」

「何を言っている? 今回は私とお前だけでやる予定だが」

「は?」


 アレクシアが予想外のことを言いだすので、エクスは思わず聞き返してしまう。


「別に、私と二人で対処できない相手でもないだろう」

「なら、なおさら俺達がやる必要はないように思うが」

「久々にお前と肩を並べるのも悪くないと思ってな」


 アレクシアは不敵な笑みを浮かべていた。


「……だが、お前と一緒に戦うのは久々だからな。上手くいくとも限らんが」

「お前なら私がどう立ち回っても上手くやってくれるだろう」

「俺に全部丸投げか」


 それを聞いて、エクスははぁ、と大きく息を吐いた。

 以前から無茶振りをされることは多かったので、こんなやり取りも懐かしく感じてしまう。


「当てにしている」


 アレクシアは軽く片目を閉じると、後ろを振り返った。


「さて、これからゴブリンを討伐するが。ここにいる諸君が全員で挑めば、さして苦労せずに終わるだろう。だが、この程度の相手にこれだけの人数を割くのは非効率的だ」


 背後に控えていた団員に、アレクシアは凛とした態度で言い放つ。


「つまり、最低限の人数であの群れを始末する、ということでしょうか」


 手前にいた団員が、そう質問する。


「そうだな。今回は、私とエクスの二人でやることにする」


 アレクシアがそう言うと、団員達がざわめきだした。


「いくらゴブリンでも、あの数を二人でかよ」

「さすがに無謀過ぎないか」

「副団長はともかく、特殊部隊長の方はほとんど部下任せだって聞くし」

「だけどよ、この前副団長といい勝負してたぜ」


 アレクシアは軽く手をたたいて、ざわめきだした団員達を黙らせる。


「やり方次第で、二人でもあの数をどうにかできる。それをよく見ておくように……私が前に出る、構わないな」

「ああ、その方が良いだろう」


 アレクシアはエクスに一瞬だけ視線をやると、ゴブリンの群れに向かって飛び出した。


「と、いうわけだからお前達も手を出すなよ。もっとも、お前達まで参加したら一方的な蹂躙になるから参考にもならんか」


 エクスは四人にそう言って、アレクシアの後を追いかける。


「あの二人なら問題はないと思うけど、隊長は長いこと田舎にいたんだよね。久々に副団長と一緒に戦って、連携なんかできるのかな」

「どうかしら。多分、パパの方が合わせるんだろうとは思うけど」


 カトルが疑問を口にすると、シャリアは半信半疑といった感じで答えた。


「副団長さんが前で剣を振るって、お父さんが魔法を使うなら無難だけど。それだとありきたりだよね」

「だけどよ、今回は数が多くて乱戦になりそうだからな。そんな状況で武器を持ち替えるのも大変じゃないか」


 セロルの言うように、アレクシアが前で剣を振るってエクスが魔法で支援するのが無難だろう。だが、それだと魔法が使えない騎士団員には全く参考にならない。

 かといってリュケアが危惧している通り、大勢の敵を相手にする中で武器を持ち替えるのは困難だ。


「それくらい、わからない人達じゃないと思うけどね。まあ、お手並み拝見といこうか」


 カトルはそう言うと、ゴブリンの群れに向かった二人に視線をやった。

 三人も同様に視線をやる。

 それと同時に、ちょうと二人とゴブリンの群れがぶつかり合っていた。


「囲まれたな」


 ゴブリンの群れに包囲されて、アレクシアは全く困っていないような口振りで言う。


「わざわざ不利を背負うこともないだろうに」

「これくらいでちょうどいいさ。でないと、一方的な虐殺だ」

「やれやれ、だな」


 エクスは剣に手をかけようとした手を止めると、背中から槍を引き抜いた。


「私とお前が本気でやったら、参考にもならんからな」


 アレクシアは剣を抜くと、目の前のゴブリンに斬りかかった。

 一振りで一度に数体を薙ぎ払われたのを見てか、周囲のゴブリン達が一斉に飛び掛かってくる。

 エクスはアレクシアの脇から槍を突き出して、飛び掛かってきたゴブリンを串刺しにしていた。


「良い槍だ、次は斧も新調してもらうとするか」


 新しい槍を振るって、エクスは満足気に頷いていた。

 駄目になった量産品の槍の代わりに新調した槍は、以前よりもずっと手になじむ物だった。専用に作ってもらったということはあるにしろ、以前の槍よりも明らかに使い勝手が良かった。


「相変わらず、安心して背中を任せられるな」

「それは何よりだ」

「まだ数が多いから、ゆっくりと減らしていくか」


 アレクシアがゆっくりと、という部分を強調したのでエクスはおおよそを察していた。


「なら、こちらから攻めるのは控えるか」

「そうしてくれるとありがたい」


 二人は互いの背中を守るようにゴブリンと対峙する。

 先程一斉に襲い掛かって返り討ちにされたのを見ているせいか、ゴブリン達も少し慎重になったのか様子をうかがっていた。


「少しは頭が回るらしい」


 ゴブリン達が一斉にではなく、タイミングをずらして飛び掛かってきたのを見て、アレクシアは意外といった感じで呟いた。


「だが、こちらとしても好都合ともいえるな」


 アレクシアはわざと隙を見せるように剣を振るった。


「何よ、あれ」


 それを見ていたシャリアが信じられないというように声を上げる。


「どうしたの、お姉ちゃん」

「あんな隙だらけの振りをして、どういう……」


 そこで、シャリアの言葉が止まった。

 アレクシアの隙を付くように攻撃してきたゴブリンを、エクスが串刺しにしていた。そして、エクスもわざとらしく隙を晒している。

 そこを狙ってきたゴブリンを、今度はアレクシアが横薙ぎに斬り払った。


「ああ、わざと隙だらけな動きして、それをお互いにフォローしているのか。いくら手本を見せるからって、そこまでやるとは思わなかったな」

「は? そんな危ないことしてるのかよ。いくら相手がゴブリンだからって、一歩間違えたら大怪我じゃ済まねえじゃねえか」


 大体を察したカトルがそう言うのを聞いて、リュケアは驚きを隠せなかった。


「飛べ」


 エクスが短く言うと、アレクシアは大きく跳躍する。

 それと同時にエクスは斧に持ち替えると周囲のゴブリンを一気に薙ぎ払った。


「おい、どうしてそこに着地する。斧に加えて人一人の重量とか、腕に負担がかかり過ぎるんだが」


 アレクシアが斧の先端に乗ったせいで、エクスは思わずバランスを崩しそうになってしまう。


「挟み撃ちにする、飛ばしてくれ」

「簡単に言ってくれるな」


 エクスが斧を勢いよく振るうと、アレクシアはそれに合わせるように高く飛び上がった。

 今度はエクスとアレクシアでゴブリン達を挟み込む形になる。

 形勢不利を悟ったのか、ゴブリン達は一斉に逃げようとし始めた。


「ここで逃がすと厄介だからな、悪いが全滅させてもらう……揺れろ」


 エクスはゴブリン達の足元を軽く揺らした。

 揺れる地面に足を取られて、ゴブリン達は慌てふためいている。


「もう十分だな、終わらせるか」


 アレクシアは動揺しているゴブリンを容赦なく斬り捨てた。


「こっちに逃げても無駄だな」


 アレクシアに背を向けたゴブリン達は、エクスの斧に薙ぎ払われる。


「まあ、こんなものか」


 ゴブリン達を全滅させてから、アレクシアはエクスの斧と自分の剣を軽く打ち合わせた。


「久々にお前と共闘したが、思いの外上手く行ったな」

「相手が弱かっただけだ。それに、私の意図を汲み取ってくれて助かった」

「あんな手抜きは、もうやりたくないが。いくら相方がお前とはいえ、わざと隙を晒すのは心臓に悪い」

「そうか? 私はお前が相方だから、何の心配もしていなかったが」


 エクスが愚痴っぽく言うと、アレクシアは何の気なしにそう答えた。


「随分と買い被ってくれるな」

「お前こそ、口ではそういっても私を信頼してくれていただろう」

「まあ、な。で、こんなことで団員達は学べたのか。確かにやっていることはそう難しいことでもないが、理解できても実践できるかどうかは別問題だ」

「それは、あいつら次第といったところだろうな。だが、一度見ているかどうかでも随分と違ってくるはずだ」

「そうだといいが」


 エクスは後方でこちらを見ているであろう団員達に視線をやった。


「思えば、私は自分のことで精一杯だったな。というか、騎士団自体が基本的に自分のことは自分でやれ、というやり方だ。こういった試みは、初めてかもしれないな」

「確かに、自分一人ではできることには限界がある。他人の意見を取り入れたりすることで、また違うものが見えてくることもあるだろう。もっとも、そんなことを必要としない天才も少なからずいるか」


 エクスは自分の娘達、それとカトルとリュケアのことを考えていた。


「私は人に教えるのは苦手だ。そういった面では、お前には敵わないと思っている。本来なら、お前のような人間が上の立場にいるべきかもしれないな」

「どうだろうな。俺のような怠け者が上に立ったら、騎士団が崩壊しかねん」

「ははっ、以前は成り上がるためになりふり構わなかった男が、今は怠け者か」

「で、わざわざこんな面倒なことをしたのには理由があるんだろう」

「……怠け者の言葉とは思えないな」

「怠けたいなら、時には勤勉になる必要もあるらしい」


 エクスがそう言うと、アレクシアは面白いものを見たというような表情になっていた。

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