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再会

「五年振り、か。よもや、またここに来るとは思わなかったな」


 騎士団の門を前にして、エクスは感慨深げに呟いた。


「パパ、懐かしいのはいいけど」

「そうだよ、お父さん。ここでぼーっとしていても仕方ないよ」


 だが、あの時とは違って今は二人の娘が隣にいる。


「さすがに俺の事を覚えている奴もいないだろうから、妙な目で見られるかもな。特に、お前達のような美人を二人も侍らせていれば、なおさらだ」

「美人、って。パパは誰彼構わずそう言うの、止めた方が良いと思うけど」

「変に勘違いされたら、大変だし」


 シャリアとセロルは呆れたようなジト目でエクスを見ていた。


「親の贔屓目もあるかもしれんが、お前達は間違いなく美人だぞ。俺があと十歳ほど若かったら放ってはおかなかったが、もうおじさんに片足突っ込んでるからな」


 エクスは笑い飛ばすように言うと、騎士団の門に手をかけた。


「はぁ、先が思いやられるわね」

「そうだね」


 二人は顔を見合わせると、盛大な溜息をついた。


「おい、行くぞ」


 エクスに促されて、二人はやれやれというように後を追いかける。


「でも、パパを相応の地位につけて、その上であたし達がパパの部下、かあ。団長さん、一応考えてくれてるね」

「話が出来過ぎている気がしないでもないが。俺の地位は『特殊部隊長』で、権限は団長の次か……その上で、お前達以外に二人部下が付くと。厄介事を押し付けられそうだな」

「問題ないよ、お父さん。わたしとお姉ちゃん、それとお父さんなら大抵のことは片付くから」

「真っ当な仕事なら、な」


 エクスは二人に聞こえないように呟いた。表向きな騎士団の仕事であれば、シャリアとセロルなら問題なくこなせるだろう。だが、特殊部隊という肩書がどうしても気にかかった。

 下手をしたら汚れ仕事を押し付けられる可能性は否定できない。

 まあ、その時は俺がやればいいだけの話か。ある意味、俺に向いているだろうしな。


「お父さん?」


 エクスが考え事をしているのを見て、セロルがどうしたの、というように見上げてくる。


「いや、大したことじゃない」


 エクスは笑顔を作ると、何でもないというように言った。成長したとはいえ、まだエクスを見上げないといけないほど体格の差がある二人だ。

 可能な限り、汚れ仕事は自分が被るようにすればいい。それに、団長の次に権限があるのならある程度は突っぱねられるだろう。


「ここか」


 騎士団の離れにある建物の前で、エクスは足を止めた。自分がいた頃はこんな建物はなかったが、外見からして数年以内に作られた物だと予想できた。


「待って、パパ」


 扉に手をかけたエクスをシャリアが制した。


「中に誰かいる。殺意までは感じないけど、敵意もあるわ」

「ああ、わかっている」


 シャリアの警告をさらりと受け流して、エクスは扉を開けて中に入る。


「あんたがオレ達の上司か。それにしては、随分と脇が甘いな」


 シャリアやセロルとさして変わらない年頃の少年が、エクスの首筋に短剣を突き付けていた。


「おっと、下手な動きをしたら、これがあんたを貫くよ」


 エクスが腰元の剣に手をかけようとすると、部屋の隅からそう聞こえてきた。

 目線をやると、小型の弓をエクスの胸元に向けている少年がいた。二人の顔つきがよく似ているから、兄弟かもしれない。


「団長から只者じゃない人間を寄越す、って聞いていたけど。この程度に対処できないようじゃ、大したことはないな」

「パパは最初から気付いていたわ。あんた達がどう出るか見るために、敢えて何もしなかっただけよ」


 馬鹿にするように言う少年に、シャリアが敵意を剥き出しにしていた。


「そんなこと、後からいくらでも言えるよな」

「違いないな。で、お前達は俺をどうするつもりだ」


 いまにも飛び掛かりそうなシャリアを軽く手で制して、エクスは至って落ち着いた声で言う。


「殺す、と言ったら?」

「仮に俺を殺しても、後ろの二人から逃げられると思うか」


 少年の態度からその言葉が本気でないと察して、エクスは軽い口調で答えた。


「そこまでだね、リュケア。おっさんの言うように後ろの二人、僕達じゃ手に負えない」


 弓を構えていた方が、降参するように矢先を逸らした。


「でも兄貴、こんな大したことのなさそうな……」

「お前も気付いているだろ。このおっさんはわからないけど、後ろの二人は副団長に匹敵するよ」


 リュケアと呼ばれた方は、渋々ながらも短剣をエクスの首筋から外した。


「へぇ、一応、ある程度の分別はあるのね。でも」


 シャリアはリュケアが全く反応できない速度で剣を抜くと、剣先を喉元に突き付けた。

 同時に、セロルが弓使いの眼前に炎の渦を巻き起こす。


「おい、お前達。俺は気にしていないから、そこまでする必要はないぞ」


 二人が思いもしなかった行動に出て、エクスは驚いてしまう。確かにいきなり襲ってきたことに怒るのは理解できるが、大事にはなっていない。


「パパは、まだ若いわよ。おっさん呼ばわりは失礼じゃないかしら」

「それに、お父さんはあなた達の上司になるの。二度とおっさんなんて呼ばないで」


 だが、二人の怒りの矛先は全く別のところにあったようだ。

 

「は? オレらとお前達、それほど歳変わんねえだろ。その父親だっていうなら、オレらからしたら十分おっさんだろうが。ま、見た目は若いようだけどな」


 リュケアは剣を喉元に突き付けられながらも、全く怯んだ様子は見受けられなかった。


「二人共、そこまでにしておけ。そんなくだらんことで一々腹を立てていたら、この先続かないぞ。それに、俺がおっさんに片足突っ込んでるのは事実だしな」


 エクスがそう言うと、シャリアは剣を納めてセロルは炎を消し去った。


「悪いな、娘達が迷惑をかけた。実の娘ではないとはいえ、俺の育て方がまずかったかもしれん。こんなおっさんだが、これでもお前達の上司になる。嫌かもしれんが、よろしく頼む」

「……いや、こっちこそ試すような真似をして悪かった」


 エクスが謝罪をすると思ってもいなかったのか、リュケアはばつが悪そうに言う。


「あんたは、他の連中とは違うみたいだ。僕はカトル。で、そっちが弟のリュケア。双子だから、見分けがつかないかもしれないけど」


 それを見てか、カトルは弓をしまって自己紹介をした。確かにカトルとリュケアはよく似てはいるが、見分けがつかない程でもなかった。


「そうか。団長から聞いているかもしれんが、俺はエクス。で、後ろの二人が」


 エクスは二人に自己紹介するよう促した。


「シャリアよ、よろしく」

「わたしはセロルといいます。今後とも、よろしくお願いしますね」


 シャリアは普段通りに、セロルは丁寧に自己紹介する。


「なるほど、特殊部隊というのも頷ける話だ。お前達は他の騎士よりも頭一つは抜けているだろうからな。はっきり言って、持て余されていたんじゃないか」


 エクスは思っていた以上の人員が配置されていたことに、騎士団が本気であることを感じていた。この二人に加えて、シャリアとセロルまでいる。

 並の任務どころか、相当困難な任務ですら容易にこなせそうだと思っていた。


「いや、どうだろうな」

「僕達をまともに評価してくれたのは、副団長以外じゃあんたが初めてだから」


 だが、エクスの評価とは裏腹にカトルとリュケアは互いに顔を見合わせて何とも言えないような表情になっていた。 


「カトル、リュケア。失礼なことはしていないだろうな」


 勢い良く扉が開いて、小柄な女性が入ってきた。


「副団長、どうしてこちらへ」


 それを見て、カトルは驚いたように言う。

 信じ難いことだが、この小柄な女性が副団長らしい。


「お前達が新しい上司に失礼なことをするんじゃないかと、心配になってな。と、もう到着していましたか。何か、失礼なことをされませんでしたか」


 副団長はエクス達に気付くと、軽く頭を下げた。


「あ、実は……」


 口を開きかけたリュケアを、エクスは軽く手で制した。この副団長はかなり真面目そうだから、事実を話したら面倒なことになりそうだった。


「いえ、特に問題はありませんよ。むしろ、技量のある部下をつけてもらってありがたいと思っています。ですので、顔を上げて頂けますか」

「そうですか。でも、一見しただけで技量を見抜くとは『只者ではない』と言っていた団長の……」


 顔を上げた副団長だったが、そこで言葉が止まった。


「エクス、なのか。どうして……いや、戻ってきて、くれたのか」


 そして、驚いたようにエクスの顔をまじまじと見る。


「アレクシア……」


 そこにいたのはかつて目標としていて、そして超えることができなかった相手。

 二度と会うことがないと思っていたこともあって、エクスは上手く言葉が紡げずにいた。

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