謝罪
遅めの昼を終えた頃、インターホンが鳴った。
(まだ続きがあるのに……)
インターホンに映っていたのは、短髪の女とあの男だった。兄さんにメッセージを送り、私は無言で通話ボタンを押した。
「すみません、いちまるテレビの者です」
短髪の女が言った。
「何ですか。テレビには出ません。お帰りください」
通話ボタンをオフにしようとした時だった。後ろでモジモジしていた男が口を開いた。
「お詫びをしたいんです」
「お詫び?」
短髪の女が少し強めの語気で話す。
「私の後輩のことでお詫びをさせていただけませんか。先日、失礼な態度をしてしまったようで」
なんだこいつらは。私は目を丸くした。
「非常識かもしれませんが……」
失礼も何も、男の話を聞かずに追い返したのは私だ。
非常識なのは私なのだ。
(何もそこまでしなくても)
男の先輩であろう短髪の女が急に不憫に思えてきてしまい、私は珍しく玄関の扉を開けた。
◯●
「急に伺ってしまい、すみません」
短髪の女が頭を下げ、続いて男が頭を下げた。
応接間に入ってすぐ、女が小さなクッキー缶を手渡してきた。謝罪の気持ちの表れらしい。
女の名は千夏といった。男の名は小山だという。
「謝罪って何ですか」
「俺はSolitaさんの気持ちを何にも考えずにずかずか来てしまって、本当に申し訳ありませんでした」
「いえ。私もあの日すぐに追い返してしまい、すみませんでした」
「取材に関しては、強要するつもりはありません。私たちはこのまま帰りますので、ご安心ください」
「そうですか」
しばし沈黙が流れた。
あちらもばつが悪いようだった。
「私の絵は見たんですか」
小山の体が跳ね上がった。
「はい!」
「どうでしたか」
「……言葉に表せない生命力を感じました。Solitaさんの持つエネルギーをキャンバスから感じられて……何というか……生きる力を感じました。上手く言えませんが」
「生命力」
「はい。技術はもちろんなんですけど、それ以上に描いた人を知りたくなる絵でした」
そんなこと、初めて言われた。
「そうですか」
「俺、本当にSolitaさんの絵に見入ってしまって。出演交渉のことなんかすっかり忘れてたんです。純粋に好きだなって」
「……」
ガラガラと乱暴に引き戸を開ける音がした。
「ソリタ!」
兄さんが息を乱して入ってきた。
小山と千夏が反射的に席を立ち、頭を下げた。
「あなた方、どういうつもりですか?!小山さん、出演依頼はお断りした筈です。なのに、どうしてですか?!」
「申し訳ございません!」
小山は頭を低く下げた。
「いい加減にしてください!ソリタの意向を無視しないでください!」
「お話を聞いてください!」
千夏が宥めるも、兄さんの怒りは収まらなかった。
「これ以上、ソリタを傷付けるようなことはしないでください!」
「ですから……!」
「兄さん。大丈夫」
その言葉は無意識に口から出ていたようだった。