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画家のソリタ   作者: Suzura
8/65

謝罪



遅めの昼を終えた頃、インターホンが鳴った。  


(まだ続きがあるのに……)


インターホンに映っていたのは、短髪の女とあの男だった。兄さんにメッセージを送り、私は無言で通話ボタンを押した。


「すみません、いちまるテレビの者です」

短髪の女が言った。

「何ですか。テレビには出ません。お帰りください」

通話ボタンをオフにしようとした時だった。後ろでモジモジしていた男が口を開いた。

「お詫びをしたいんです」

「お詫び?」


短髪の女が少し強めの語気で話す。

「私の後輩のことでお詫びをさせていただけませんか。先日、失礼な態度をしてしまったようで」


なんだこいつらは。私は目を丸くした。


「非常識かもしれませんが……」 


失礼も何も、男の話を聞かずに追い返したのは私だ。

非常識なのは私なのだ。


(何もそこまでしなくても)


男の先輩であろう短髪の女が急に不憫に思えてきてしまい、私は珍しく玄関の扉を開けた。



◯●



「急に伺ってしまい、すみません」


短髪の女が頭を下げ、続いて男が頭を下げた。

応接間に入ってすぐ、女が小さなクッキー缶を手渡してきた。謝罪の気持ちの表れらしい。

女の名は千夏といった。男の名は小山だという。


「謝罪って何ですか」

「俺はSolitaさんの気持ちを何にも考えずにずかずか来てしまって、本当に申し訳ありませんでした」

「いえ。私もあの日すぐに追い返してしまい、すみませんでした」

「取材に関しては、強要するつもりはありません。私たちはこのまま帰りますので、ご安心ください」

「そうですか」


しばし沈黙が流れた。

あちらもばつが悪いようだった。


「私の絵は見たんですか」

小山の体が跳ね上がった。

「はい!」

「どうでしたか」

「……言葉に表せない生命力を感じました。Solitaさんの持つエネルギーをキャンバスから感じられて……何というか……生きる力を感じました。上手く言えませんが」

「生命力」

「はい。技術はもちろんなんですけど、それ以上に描いた人を知りたくなる絵でした」


そんなこと、初めて言われた。

「そうですか」

「俺、本当にSolitaさんの絵に見入ってしまって。出演交渉のことなんかすっかり忘れてたんです。純粋に好きだなって」

「……」


ガラガラと乱暴に引き戸を開ける音がした。


「ソリタ!」


兄さんが息を乱して入ってきた。

小山と千夏が反射的に席を立ち、頭を下げた。


「あなた方、どういうつもりですか?!小山さん、出演依頼はお断りした筈です。なのに、どうしてですか?!」


「申し訳ございません!」

小山は頭を低く下げた。


「いい加減にしてください!ソリタの意向を無視しないでください!」


「お話を聞いてください!」 


千夏が宥めるも、兄さんの怒りは収まらなかった。


「これ以上、ソリタを傷付けるようなことはしないでください!」

「ですから……!」



「兄さん。大丈夫」

その言葉は無意識に口から出ていたようだった。










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