先輩
(納得いかない……)
"納得いきません!"
そう口に出してしまいそうな時だった。
「私が行きます」
遮ったのは千夏先輩だった。
「お前が行くのか」
「はい。私のほうがSolitaも話しやすいかと」
「先輩、」
「ですよね、葛西さん」
「まあ、いい。とにかく誰でもいいから行ってこい」
葛西さんはそう吐き捨てると、またどこかへ行ってしまった。
「千夏先輩、あれって」
「小山、行くよ」
「今からですか」
「うん、支度して」
千夏先輩は俺に淀んだ優しい笑顔を向けると、荷物をまとめ半ば強引に俺を連れ出した。
エレベーターの中で俺は尋ねた。
「千夏先輩、どういうことですか。Solitaさん自身は出たくないって」
「もちろん。出演交渉じゃないよ」
「は?」
「謝りに行くの。あと建前上ね」
「どういう……?」
「あの場で揉めるくらいなら、私が庇った方が早かったしね。めんどくさいじゃん。揉めるの」
(確かに……)
「帰ったら一緒に怒られよう」
「すみません」
「いいの。あと、Solitaさんの方には不快な思いさせちゃったから、お茶菓子持って謝りに行こう」
「はい」
エレベーターを降り、駐車場へ向かう。
千夏先輩の運転でSolitaのアトリエに向かった。その途中の洋菓子店でクッキー缶を買った。
「ちょうど良いの買えたね~」
「ですね、美味しそう」
「結構人気なんだね。今度企画出してみようかな」
「良いですね」
「クッキー代は経費で落ちるし、よし!OK」
「はい!」
「しゅっぱーつ」
千夏先輩の元気な掛け声が車内に響いた。