上司
会社に行くと、珍しく上機嫌な葛西さんに出会った。
自販機で珈琲を買っていたようだ。俺の姿を見ると、冷たい珈琲を何も言わずに買ってくれた。
「小山、どうだった?」
「あ、えっと」
(なんて説明しようか……)
「まあ、いい。とりあえず戻るぞ。話は後」
「はい」
その日、葛西さんと乗ったエレベーターはいつもよりも長く感じられた。
「小山、どうだった?」
フロアに戻ると、早速さっきと同じ質問が飛ぶ。アキラさんがこちらを心配そうに見ている。
「実は」
覚悟を決め、Solitaのことを話した。
黙って頷いていた葛西さんは、俺が話し終わると「そうか」と呟いた。
「さすがに出たくない人を無理矢理出すのは良くないので、別の人を探した方がいいと考えま……」
「馬鹿か」
葛西さんの言葉がピシャリと遮った。
「そこを説得するのがお前の仕事だろうが」
葛西さん越しにアキラさんがため息を吐いているのが見えた。こうなるのは予想通りだったのか?
「いやいや。出たくないってことでしたし」
「馬鹿か。数字取るためだろ。上手く言ってこいよ。何のためにお前を行かせたんだ」
意味が分からなかった。
「お前は口だけは上手いんだから」
「お言葉ですが……番組の為に誰かに嫌な思いさせるのはいくら面白い番組でも、視聴者も望んでいないと思います」
「綺麗事言ってんじゃねえよ!」
ドンと葛西さんが机を叩く。フロア内の皆が一斉に飛び上がる。大半が"またやらかしたか、小山……"と俺を見ていた。
意識が遠のく中、俺はただ罵倒されていた。