ココア 2
「自信がないんだ、ドラマ」
「自信、ですか」
赤羽先輩は、憂いを纏った表情をしていた。
「何もかも恵まれてるのに」
「だからこそかもしれませんね」
「え?」
「恵まれている環境に立つ資格がないって思い込んでるのかもしれません。そうじゃなくても」
「……」
「赤羽先輩の周りの人たちは少なくとも、赤羽先輩は恵まれてる環境に立つ資格があるって認めてくれてると思います。だから堂々と歩いて良いと思いますよ」
「そうかな」
「後先を考えるよりも、死力尽くして頑張ったって言えるようにしていけば良いと思います。自信と成績はあとから付いてくると思います」
「……」
「それに、先輩を愛してくれる人はたくさんいます。死力尽くした頑張りは、その人たちが見てくれてると思いますよ」
芸術家の作品を見る人は正直だ。
"芸術家が手を抜いたものは客はすぐに分かる。芸術家として生きていきたいなら作品は自信を持って出しなさい"
絵の先生が昔、小さな声で呟いた。この言葉は今でも私の心に残っている。
「そっか……」
「あ、そうだ」
「ん?」
「クッキーの残りがあったの忘れてました。小山さんが持ってきてくれたやつで、確かまだ開けてなかったのが……」
小山がくれたクッキーの残りが戸棚にあったのを思い出し、私は取りに行った。
「中埜さんー、クッキー食べますか?」
戸の向こうに呼びかけるが反応がない。
代わりに、かすかに電話の声が聞こえた。
「先輩、クッキー何味が……先輩?」