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ココア 1
その週の週末、いつものように絵を描いていると、インターホンが鳴った。
玄関を開けると、変装をした赤羽先輩が立っていた。
「先輩」
「急に来ちゃった、ごめん」
「中埜さんは?」
「車に居るよ。後で来る」
「LINEしてくださいよ」
個展の日、たまたま2人きりになったタイミングでLINEを交換していた。
「どうされたんですか」
「近くでドラマの撮影してて、少し時間できたからソリタさんの家近いし、寄ろうかなって」
「なるほど」
「……」
俯いた赤羽先輩は、いつもより元気がないように感じた。わざとではなく、どこか悩みがあるような空気を纏っていた。
「大丈夫ですか?」
「あ、うん。大丈夫」
「……」
◯●
「ココアぐらいしかなくて」
「ありがとう」
「私まですみません」
「いえ」
私は中埜さんと赤羽先輩に冷たいココアを出した。
「何かあったんですか?」
「……」
「私、外で待ってますから」
「ありがとうございます、中埜さん」
中埜さんが外に出ると、先輩は溜め息を吐いた。
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