クッキー
個展の日が来た。
俺は何とか休みをもぎ取り、車を走らせていた。
途中、あの洋菓子店に入り、差し入れを買っていった。
個展には相変わらず多くの人が来ていた。
端で静かに様子を見ていたSolitaとユウに会釈をすると、少し驚いたような顔をしていた。
◯●
「まさか来てくださるとは」
個展終わり、Solitaが言った。
ユウは明日仕事だと呟き、早々に帰ってしまった。
「休みを何とかもぎ取ってきました。あ、これ。クッキーです。差し入れです」
「ありがとうございます。わ、たくさん入ってる」
紙袋に入ったクッキーを渡した。
「抹茶、紅茶、チョコチップを買ってきました。お好きなのを」
「ありがとうございます!私チョコチップ好きなんです」
「良かった!」
「お茶淹れますね」
「おいしいです」
Solitaは、クッキーの欠片を口につけていた。
「Solitaさん、クッキー、ついてます」
俺は同じ場所に小指を指して、伝えた。
「え?どこですか?」
「ここです」
「ん?」
「ここ」
「取れました?」
「まだです」
口元にはクッキーの小さな欠片がついていた。
Solitaは一生懸命口元を拭っていたが、溶けたチョコレートがなかなか取れなかった。
俺はSolitaの口元を拭った。
「ん」
Solitaは驚いたまま固まっていた。
「取れました」
「……」
目を丸くしたまま顔を見上げるSolitaと見つめ合ってしまった。Solitaのキラキラした目を見ている内にハッと我に返った。
「あっ……す、すみません、俺」
Solitaは何も言わずに俯いていた。
(確実に嫌われた……)
「本当すみません」
「いえ……」
妙な気まずさを感じ、沈黙が流れた。
(帰りたいっ)
その瞬間、電話が鳴った。
「すみません、電話出ますね」
電話の相手は、赤羽さんだった。
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