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黒いもの
またメディアの人間だった。
「ソリタ、帰るね」
兄さんの声が聞こえる。私は軽く返事を返し、筆を執る。黒いものが私の中を渦巻いていた。
メディアの人間は嫌いだ。人間の中でも特に嫌いだ。
「大嫌い。大嫌い。大嫌い」
あいつらは、人の泣いている顔が好物なのだ。
今描いている絵は優しさがモチーフだ。個展に来てくれる人や、兄さん。兄さんの奥さんのミナコさん。私の気持ちを尊重し、適度な距離を保ってくれる。
今のままでも十分なのだが。
(黒く塗りつぶしてしまいたい)
私は筆を握り締めると、黒の線を真ん中に押し付けるように描いた。