夜のひととき
無我夢中で仕事をしていたら、気付けば夜になっていた。
「今日も家帰れなかった…」
「大丈夫、皆一緒だから」
心の声が漏れていたようだ。千夏先輩がにやっと笑った。千夏先輩の目の下のクマは前よりかは良くなっている。
「結局足大丈夫ですか?」
「骨は折れてなかった。カルシウム摂ってたおかげ」
「カルシウム」
(鬼の葛西)
前にSolitaにした話を思い出してしまい、笑ってしまった。
「大丈夫?」
「大丈夫です」
「Solitaさんもだけど、小山も変なタイミングで笑うよね」
「Solitaさん?会ったんですか」
「うん。今日会社の前で迷子になってて」
「……あ」
「可愛いよね、地図つけても辿り着けないって会社の前で泣きそうになっててさ。……小山?何ニヤついてんの?大丈夫?」
「大丈夫っす、さ!がんばるぞー!!」
「深夜テンション……?」
いつもより仕事を頑張れそうな気がした。
◯●
深夜になり、少しだけ仮眠を取れることになった。
オールで詰めようかとも思ったが、俺の健康を気遣ってくれたSolitaの顔が過った。
(寝よう)
珍しいかもしれないが、うちの局には仮眠室がいくつかある。空いていれば関係者であれば誰でも使えるので、重宝されている。
(お偉方ありがとう)
椅子を並べて寝たり、廊下でスタッフが行き倒れ状態で寝ていることが当たり前だった。理由は分からないが、ある時を境に急に仮眠室が作られ、スタッフ一同狂喜乱舞したとか。
(もとい俺らも人間だしな)
俺らも改造されたハイパー人間ではないし、ロボットでもない。なので、寝ずに働くのは無理な話だがそうもいかない。華やかな表側の方は人が飽和状態だが、裏方は慢性的な人手不足だ。加えて制作費の関係もあり、人員を増やすにも限度がある。
「いっそのことAI導入すればいいのに」
AIADとかAIAPが将来開発され、それらが普及されることを祈りながら俺は眠りについた。