はじまりのロケ
この日は肌寒かった。
俺と千夏先輩は、新コーナーのロケに来ていた。
バタバタと準備に追われる中、このコーナー唯一の演者、赤羽さんは余すことなく台本を読み込み、スタッフとコミュニケーションを取っていた。
◯●
「3.2.....」
俺の合図で本番が始まった。
本番が始まってしまえば、後は段取り通りに進めるだけである。ただ、トラブルも起きかねない。
そういう意味では、1秒たりとも気が抜けない。
◯●
ロケはつつがなく行われ、後少しという所まで来ていた。
ここにきて、少し厄介な問題が起きていた。
(ファンが……)
赤羽さんは人気アイドルだ。なのでもちろんファンも多い。ある程度人がいない時間を狙ってロケを敢行したものの、SNSでロケに気付いたファンが押しかけてきてしまっていた。
(抑えないとマズいよな)
千夏先輩からの小さな合図を受け、俺らを含む数人のスタッフは段取りに支障がでないようファンを抑えに行った。
(頼む、邪魔しないでくれ……)
万が一ファンが赤羽さんに飛びかかったらと考えると肝が冷えた。
赤羽さん自身も、ファンの存在に気付いていたようだ。
「!」
自身のファンを巻き込み、段取りに支障がない範囲でロケを盛り上げた。
誰も不快にさせない、完璧な仕事だった。
(すごいな)
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