似顔絵
小山はどこか恥ずかし気な顔をしていた。
昨日突然似顔絵を描いてくれと頼まれたので、久々に人物画を描いている。
「あ、動かないで!」
「すみません」
モデル本人にゴソゴソ動かれては困る。
製作室は、陽の光にちょうど良く照らされていた。
◯●
「できました」
やはり人物画は私に向いていない。
正確に描いたつもりだが、何か歪んでいるような気がしてならないのだ。
(画家失格だな)
描いてくれと頼んだものの、歪んだ似顔絵を渡されたらさぞかし失望するだろう。
と、思っていた。
「嬉しいです。素敵」
小山はキラキラした目で絵を抱きしめた。
(色鉛筆画でよかった……)
絵の具を使っていたら大惨事である。
「良かった。気に入ってもらえるか不安で」
「めちゃめちゃ気に入りました!」
「人物画ってあまり得意じゃないんです」
「え、そうなんですか?」
「毎回主観が入ってしまって正確さに欠けるんです。良くないなって思っていて……」
幼い頃死んだ母は、人物画が得意だった。
母の描く人物画は、その人の雰囲気も捉えつつ、なにより正確さが郡を抜いていた。モデル本人がまるでそこに立っているかのような空気を発していた。
私がどれだけ絵に打ち込んで、どう足掻いても、母の描く人物画は超えられない。私の画家人生で最大のコンプレックスである。
「でも俺は好きですよ」
「……!」
「主観が入ってしまうって言ってましたけど、それって逆にSolitaさんがモデルさんをどう見てるかって部分も出てるのかなって。Solitaさんから見た俺はこんな感じなんだって思えて、嬉しいです」
「……ありがとうございます」
◯●
「帰りますね」
「はい」
すっかり日は落ち、辺りを月光が優しく照らしていた。小山は少し名残惜しいような顔をして車に乗り込んだ。
「あの、」
「はい」
「無理はしないでくださいね」
「えっと」
「仕事、お忙しそうなので」
「ありがとうございます」
小山は力のない顔で笑った。
小山の車が小さく見えなくなっていく。
「大丈夫かな……」
小山は世間知らずの私でも分かるほど、働きすぎだ。
口では大丈夫と言うが、足はふらついている。
よく分からないが、休みは取れないのだろうか。
だとしたら折角の休みを私と過ごさせてしまったことになる。申し訳なくていたたまれない。
(いつか倒れてしまいそう……)
月明かりの下、小山に対して何かできないかと思考を巡らしていた。
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