激務と電話と 2
「もしもし…」
心臓が馬鹿にうるさかった。
「代わりました。ソリタです」
「あ、えっと」
毎回同じように吃る癖をいい加減どうにかしたい。
「?」
電話越しだが、Solitaが不思議がっている様子が目に浮かんだ。
「Solitaさん、最近元気ですか?」
(間違えた)
「……はい。元気です」
(声が暗いような)
「全然連絡できてなくてすみません。仕事で………」
「いえ。そうなんですね……お疲れ様です」
「今お兄さんと一緒なんですね」
「はい。ミナコさんと兄さんと3人でご飯食べてて」
「ミナコさん?」
「兄さんの奥さんです」
(なるほど)
「頂き物の干物が美味しいからって」
「干物」
「はい。ホッケなんですけど、すごく美味しくて。食べて頂きたいぐらいで。ホッケ好きですか?」
「大好きです。3度の飯よりホッケ派です」
「ホッケもご飯ですね」
電話越しだが、2人揃って笑い合った。
「あ、ミナコさんが、良かったらホッケ取っておくって言ってくれてます。どうしますか?」
「え、食べたいな…」
「近々来られそうですか?」
「あ……仕事が詰まってて……」
「そうですか……」
「本当すみません、スペシャルが近々放送で、その関係なんです」
「忙しそうですね」
「スペシャルが終われば、少しは落ち着く……かな」
「あまり無理しないでください」
「ありがとうございます」
「また時間ができたらお話しましょう」
「……」
Solitaの最後の言葉は、声音から心が読めなかった。
Solitaとの電話を経て、俺自身気力が回復したのかどうか分からなかった。ただ1つ言えるのは、Solitaは俺のことを覚えていてくれたということだった。
(それだけで良いか)
安堵のような、嬉しさのような、その正体が分からない感情。それに加えて少しの寂しさが混ざったような感情に支配された俺は、それらを掻き消すために無理やり眠りについた。