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兄と妹
不思議だった。
私はあの日描いた絵を見つめながら考えていた。
あの時の出来事を誰かに話したことはない。ましてや初対面に近い相手だ。何が私をそうさせたのか、言葉にならない感覚があった。
初対面に近い相手なのに、信じてしまうのが早かったか。
あの日描いた絵は気持ち悪い色味が使われている。今の私なら絶対使わないだろう。
「ソリタ」
兄さんの声で我に返った。振り返ると、ミルクティーを2つ持った兄さんが立っていた。
「大丈夫?」
「うん」
ミルクティーの湯気が揺れた。
少しの沈黙が流れた。
「何で話せたんだろう。今まで話したことはなかったのに」
「……」
兄さんが慈悲の目で見ていた。
大抵の人間は、私のことを知ろうとしなかった。
私に興味は持つけど、本当の気持ちを話せば離れていった。
理想の姿を押し付けられるように。
「どうせ、引かれたと思う」
今までがそうだったから。
「それは違うと思う」
「?」
「……小山君、また来るって」
「えっ」
「ソリタが話したい時でいいから、また話したいって」
兄さんはいつになく柔らかい表情をしていた。