後輩
「そうでしたっけ?全く覚えてないです」
小山は小動物のような顔をして笑った。
「そっか」
私も思わずつられて笑ってしまった。
小山が入ってきてから、私は千夏先輩と呼ばれるようになった。それまで男やもめの環境で走り回っていた私にできた、初めての後輩だった。
「懐かしいな……」
ふとその言葉が出た。相変わらず、小山は首をかしげている。
「人を助けたいです」
新人歓迎会という名の飲み会で、小山は言った。
皆は飲みに明け暮れていてよく聞いてなかったようだが、唯一シラフだった私は鮮明に覚えていた。
「テレビは人を助けられる力があるんです。俺は人助けがしたいです。テレビで」
真っ直ぐな目で小山は言った。
「人助けなら、もっと他の仕事もあるんじゃない?」
私は直球を投げた。ここは、愛憎と金と数字の入り乱れる世界だ。誰かを食い物にして、私達は生きている。人助けどころか、人を殺してしまっていてもおかしくない。
「でも、俺は救われたんです。1人でも救えるなら、立派な人助けです。見てくれる人が1人でも、その人のために番組を作りたいです」
その目はキラキラした目だった。
私はその時、心を打たれた。
私は、私達は、日々数字を追い求めるばかりで本来の目的を忘れていたのだ。
この時、私は思った。
何があっても、小山が一人前に企画を出せるようになるまで守ろう、と。
「小山、でもね……って寝てるか……」
小山はいつの間にか寝ていた。
起こすかどうか迷ったが、とりあえず寝かしておくことにした。
(ま、起きてから言うか)